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イトル未定
12

扉の前で踞る俺たち。
もう数分で認証機器のエラーが解消されるのか、それとも一晩かかるのか、それはわからない。

「ごめんね、こんなことになって……」
「いいって。それよりナマエがひとりの時に閉じ込められなくてよかったよ」

ひとりでこのような寒い場所に取り残されたら絶望的だっただろう。
震えてこそいなかったが、横にいる彼女は膝を抱えてできるだけ体温を逃がさないように必死だった。
ふと、自分の首元のスカーフの存在を思い出す。
彼女にこれを使ってもらえば、いくらか温かくなるだろう。
ちなみに今、俺がしている物は任務で使っている薄汚れたスナイパーベールでは決してなく、普段用の物である。

「ちょっといいか」

踞っているナマエの後ろから腕を回して、彼女の首にスカーフをくるくると巻いていった。
これで少しはマシになっただろうか。

「いいの?」

後ろを振り返って申し訳なさそうにしている彼女だったが、寒さから既に鼻の頭が赤く、せめてもの暖をと思っていたので、俺は肯定の返事をした。

「あ、悪い、もっとちゃんと巻くから」

やり方が甘かったらしく、ナマエが振り向いた時に重ねたスカーフに隙間ができてしまった。
ただでさえメッシュ素材であるため、俺はもう一度彼女の首回りに腕を回した。

「こんなもんかな」
「あ、待って……」

無事にスカーフを整え、彼女から離れようとした時、後ろから回していた腕を掴まれた。

「このままのが温かいよね?」

このまま、とは。
俺が近くにいる状態のまま、ということか。

「だめ、かな」

いつか見た夢が蘇る。
彼女の顔は見えなかったが、掴まれた腕に服越しに伝わる彼女の指先の冷たさに、俺は断れなかった。
夢など思い出している場合ではない。
そうだ、他意は無いはず。
寒いから、このままだと冷えきってしまうから、それなら二人で身を寄せ合って認証機器が正常になるまで待つ方が良いに決まっている。

「そうだよな、しばらくこうしてるか」

動揺を悟られないよう、そして自分が勘違いする前に、俺は膝立ちから緩い胡座に体勢を変えた。
壁に背中を預け腕はナマエに回したままで、脚の間には彼女がいる。

「ありがとう、ピアーズ。温かい」
「おう」
「なんか、急に安心しちゃって……ごめん、眠気が」

顔を右に傾けて腕時計を見れば、とっくに日付は変わっていた。
いつまでこの寒さに耐えなければならないか見当もつかなかったが、雪山でもあるまいし眠ったからといって死ぬようなこともないであろう。
既に支離滅裂で言葉にならない言葉を呟き出したナマエは舟を漕いでいる。
ゆらゆら揺れる様子が可笑しくて、緊張している半面微笑ましくもなった。

「無理すんなよ、寝ていいぞ」

それを合図に、遂にナマエは眠りの海に沈んでいった。
眼鏡はかけたままで平気なのか
いや、それより……眠り込むのは構わないんだが、俺に寄りかかってる!
背中の後ろは壁のため、彼女に寄りかかられたら大して身動きが取れない。
俺の息でナマエの髪が揺れる。
それほど近くに彼女はいた。
甘い香りが鼻をくすぐるが、冷気のせいで嫌でも頭ははっきりしている。
そして、安心しきって寝ているナマエを見て変な気など起きるわけもなかった。
むしろ、このような無防備さに心配する気持ちの方が大きかった。
そう、俺は心配してるんだ……これくらい許される!
ああだこうだ考えてもここから出られることはない。
ナマエから熱が逃げないようしっかり抱きしめて、仕方なく俺も目を閉じた。


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