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Fall?

重厚な造りの廊下を、ナマエはおぼつかない足取りで進んでいた。
おそらく真っ直ぐ進みたいのであろう。
しかし、彼女はややよろめきながらのろのろと足を進めている。
というのも、彼女の両腕には2Lのペットボトル飲料2本が抱えられ、かつ右腕には何やら紙袋が下げられていた。

駐車場から部屋までが長い……。時々、人使いが荒いんだからぁ。

天真爛漫に笑うボスからおつかいを頼まれたナマエは小さくため息をついた。
しかし、部屋のウォーターサーバーが故障していたのに修理の手配を怠ったのは自分だったため、悔やんでいてもしかたがない。
また、ボスの思いつきや急な依頼はもはやいつものことであった。
エントランスからここに来るまで、ナマエは何人かの学生とすれ違った。
顔見知りというわけでもないため、彼女が大変そうに荷物を運んでいても当然皆知らぬ存ぜぬである。

重い…スマートにエスコートしてくれる王子はおらんのか。

そのような、くだらないことを考えながら廊下の角を曲がった。

え!

それがいけなかったのか、角のすぐ向こうに男性がいることに気づくのが遅れてしまった。
驚いたナマエは紙袋は死守したものの、2本のペットボトルは床に散らばった。

試薬瓶じゃなくてよかったけど……、盛大に落として恥ずかしいな。

別々の方向に転がったペットボトルを拾おうと、まずは足元のそれへと手を伸ばす。
紙袋とのバランスを取りながら慎重に抱えて前を向くと、もう1本のペットボトルはそこにいた人が親切にも拾ってくれていた。
しかし、それをナマエに渡す気配はない。

「あの、ありがとうございます」
「重いだろう」

男性は、お礼を述べたものの次の言葉が出てこないナマエに微笑むと、彼女の腕の中のもう1本のペットボトルも自分の手中に収めた。

「悪いです!私、この先の研究室に持っていくんです」
「奇遇だな、俺もそっちに用があるんだ」

強引なようで、相手に申し訳なさを感じさせないような少しおどけた表情の男性は、「行こう」と言って歩き始めた。
その時、ふたりの進行方向先にあるドアからボスであるレベッカが顔を出した。

「ナマエ!ありがと、レオンを連れてきてくれたのね。また遅刻かと思ったわ」

優秀で凄い人だと思ってはいたが、まさかボスが王子様と知り合いとは思いもよらなかった。
目の前にいる男性が自分に言ったことがあながち嘘ではなかったということを認識するよりも前に、ナマエは彼の微笑みが頭から離れないのであった。


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