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「それじゃあ、道中気を付けてね」

 準備が出来た三人の背にアニマはそう言葉をかけると、嬉々とした表情を浮かべたエリスが振り向く。

「明日の昼頃には戻れると思います!」
「もっとゆっくりしてもいいのよ。ジュナは一度目にしておくといいわ。素敵な場所よ」
「いえ、大事な娘さんをそうそう連れ回せませんよ」

 そう言ってイリスは悪戯気に笑うと、ソアは不服そうに頬を膨らませる。

「もう、女の子扱いしないでよ。足手まといにはならないもん」
「それは知ってる」
「なんかエリスのは違う」
「なんだよ、俺だと駄目なのかよ」
「だから、そうゆうことじゃなくって!」

 エリスのからかいにソアが噛み付き、それにまたエリスがと続くエンドループに、蚊帳の外にされたアニマとイリスは互いを見て微笑んだ。
 「喧嘩両成敗」との言葉と共にイリスからの手刀を食らった二人は、納得がいかないと声を上げたがイリスは無理矢理二人の手を取ると、アニマに向き直らせる。
 アニマの前に立たされた二人は、まるで母親に怒られた子供のように小さくなっており、アニマは二人を交互に見据えると「仲良くね」と三人を抱き締めた。

「さあ、いってらっしゃい」


 メマルシーニ平原。
 マグバス大陸の北東に広がる大きな平原である。
闇の加護が強まっている今の時期に、道中魔物に遭遇するのはこのノジェスティエでは致仕方のない事だ。

 と言うのも、今目の前には猪よりも数倍図体が大きく、立派な角を持つオークと言う魔物と出くわしたからである。

 三人はジュナまでの舗装された道を歩いていたが、草むらから獣の足音が聞こえた時には既に皆武器を手にしていた。
 飛び出してきたオークは荒い鼻息を尽きながら後ろ足を何度か蹴り上げると、イリスへとその巨体を使い突進をしてくる。
 単調なその攻撃をひらりと交わすと剣を抜き、瞬時に切りつけるが、その体を覆う体毛は鋼のように硬い。

「おや、剣は相性悪いですかね」
「…んなことねえって! みてろ!」

 口元を釣り上げてエリスは笑う。
 その巨体にすかさず一蹴いれると、一瞬よろめくオークのわき腹目掛けて切り上げ叩き落す。
 鋼の体毛が生えていない場所だったのか、オークは雄叫びを上げながら後ずさりするや否や、次の標的をソアへと変えて突進を繰り出す。

「ソア! いったぞ!」

 エリスが叫ぶと、ソアは太腿から中央に赤い宝石をあしらったダガーを手に取った。
 小さな十字の形をしたダガーナイフの様であったが、煌びやかに見えるその赤い宝石を押すと、先から尖った刃が飛び出す仕様のナイフであった。

「まかせて」

 ソアはオークを睨みつけ、身動ぎ一つせずにオークを引き寄せる。

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