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一触即発の事態であるが、エリスは意を決して前に出ると、イリスの剣を持つ手に自身の手を重ねた。
イリスを見遣ると、自分と同じアンバーの瞳がこちらを見つめている。
「イリス、まずは話を聞こう。ロキは敵じゃない」
「エリス…この状態でも彼を信じるんですか…」
「信じる信じないより、嘘を言ってないのはイリスだって分かるだろ。俺たちより事情が分かりそうだ」
イリスは一瞬躊躇いを見せたが、溜息を吐くと何も言わずに剣を鞘に収めた。そしてロキに一瞥を投げかけると、何も言わずに背を向ける。
エリスはロキに視線を戻すと、恐る恐る尋ねる。
「なあ、ロキ。一体どうしたって言うんだ…」
「…そうですね。まずは一刻も早くこの村から出た方がいいと前置きをしておきましょう」
ロキはそうとだけ言うと、ふと、眉根を潜めた。
「…おや、お嬢さんはどうしたんです」
「お嬢…ソアのことか? ソアなら奥の部屋に…」
「…おかしい!」
ロキの意味深な言葉に、いち早く気付いたのはイリスだった。
考えてみればすぐに分かる事だ。
ソアは誰よりも周りに敏感で、警戒心が人一倍強い。熟睡していたとしても、先程のやり取りに気づかないことはない。
イリスはすぐに奥の部屋へと走って行き、部屋に居る筈のソアの事など気にせずに荒々しく扉を開け放つ。
だがその部屋に、ソアの姿は無かった。
ベッドには寝ていた形跡も無く、開け放たれた窓からは熱風が吹き込み、カーテンを揺らしていた。
そこで気付いた。先程までは聞こえなかった悲鳴、何かが焼けた匂い、外は昼のように明るく、全てを燃え尽くす炎がちらついていることに。
その光景に、エリスは血の気が引いた。
「…何、だよ、これ…」
起こっている事象について行く事が出来ず、エリスは立ちすくむ。
だがイリスは躊躇なく開け放たれた窓へと足を進め、手をかざすと舌を打った。
「ここにかけてあった呪<まじな>いは既に消えていますが…外からの音を全て遮断されていたようですね…」
エリスは固まっていた脳を動かし、窓から身を乗り出してジュナを見た。
そこには、シャルトの軍服に身を包んだ兵士達が、逃げ惑う住民に鈍く光る刃を向けていた。
紅く燃える炎が、やすやすと聖地を飲み込んでいく。
町は、あかい。
酷く痛む胸を抑え、イリスは固く瞼を閉じて窓際から退くと、部屋の前に立つロキに尋ねる。
「この村に何があったんです、教えて下さい」
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