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聖地と呼ばれた村は、地獄を思わすほどに悲惨な光景だ。
息をしている事を確認するまでもない。それほどまでに無残な殺され方をされている。
館への道のりが手薄になっていることを見るに、どうやら間に合わなかったようではあるが、ロキはその足を休めずに突き進む。
手当たり次第殺しにかかっているのであろう。シャルト軍の鎧に包んだ獣達は次々と襲いかかってくる。
だが獣達の荒い斬撃では、剣を抜いたロキを捉えることは出来なかった。
ロキは息を切らす事もなく、ゆったりとした優雅な動きでするりとかわしていく。
ロキの持つ剣は、刀身が夜空のように輝くそれは美しく波打ったフランベルジュで、兵士の荒い攻撃を受け止め、流し、そしてすぐに返す斬撃は鋭く、嫌に明確である。
鎧の隙間へとフランベルジュは入り込み、その肉を切り裂いていく。
また一人、ロキの目の前で倒れこんだ。
だがロキは顔色一つ変えずに、動かぬ体を見下ろしていたが、ふと顔をあげる。
そこには一際立派な館があり、丘陵の小道を進んで館に入った。
中は物音一つせず、ただ鉄臭い匂いだけが鼻をつく。やはり遅かったか、と胸中で舌を打つ。
館を慎重に進んでいくと、使用人であったであろう物達が力なく倒れている。床は赤に染まっている。
ある部屋に入ると、其処は既にもぬけの殻であった。血痕はないが、争った形跡が見られ、思わず苦笑した。
「…やはり遅かったようですね…流石シャルト軍士隊長殿、仕事が早い」
窓も無く質素な部屋を見渡してから入ると、部屋の片隅にガラスのような物で出来た石が落ちているのを見つけた。
ロキは石を拾い上げ、胸元からハンカチを取り出して広げると、不思議にも輝きを放つ白い花びらを丁寧に取ってガラスの石に触れさせた。
すると、一瞬だが石は淡く輝き、すぐに唯の透明なガラスの石に戻った。
ロキは驚いた表情を見せ、思案させる表情を浮かべながらその石を花弁と一緒に包み胸にしまう。
踵を返し部屋から出ると、血塗れの廊下に思わずため息を吐いた。
既にブーツには誰のものとも分からない血がべっとりと付着している。
外から騒がしい声が聞こえ、ロキは窓から外の様子を伺う。もう、ジュナの村は以前の面影も無い。
村には火の手が周っている。最後は焼き尽くす気なのであろう。
ロキはただその光景を傍観者の様に見据えていたが、丘の上にあるこの蘇生士の館からは村を見渡すことができた。
大きな通りには宿屋が見えると、あの少年たちを思い出し、ぽつりと呟く。
「…そろそろ、潮時ですかな。彼らには生きて貰わねばなりません」
腰にフランベルジュを戻すと、ロキは足早に館を後にした。
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