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 階段を上がって行く二人の背を見ながら、赤髪の少女は不服そうに頬を膨らませ、ぽつりと呟く。

「なんや、他にもおるやないの…うち、なんも知らへんで…」
「おーい、お嬢さん。部屋はあの黒髪のお嬢ちゃんが譲ったけど何人だい?」

 いつの間にか店主はカウンターに戻っており、帳場を付け直している所であった。

「ああ、せやった。えっと…」
「彼女と僕。二人デス」

 少女が答えるより先に、一癖ある話し方でそう返される。
 二人の視線は、必然的に声のする方へと向けられ、いつの間にか扉の前に立っていた黒髪の青年と目があった。
 少女はその青年を見るや否や、顔を綻ばせ声を上げて飛びついた。

「マサカや! なんや、えらい遅いし、心配したんやで!」 
「ごめんヨ、ノヴァ」

 マサカはそう言って一息つくと、赤髪の少女、ノヴァへの耳元に口を寄せると、声を小さくして伝える。

「先にここで待ってたんだけどサ、軍に追われちゃってネ。さっき追い払ってきたのサ」
「へー、そうなん? 軍とかめっちゃ面倒やんけ。マサカも大変やんなあ」
「…君と違って顔が知れてるからネ」
「なんや、それ。ま、無事で何よりやな」

 声を落として話しているマサカとは違い、ノヴァは気にしていないのか、はたまた気付いてはいないのか、先程とは変わらない明瞭な声量で話していた。
 その二人の会話を聞いていた店主は、聴こえてきた話に出てくる不穏な言葉に眉根を潜める。

「…ちょっと、お二人さん。軍とか聞こえてきたけど…あんた達何者だい?」

 ノヴァがそこであ、と声を漏らす限り、どうやら店主の存在を忘れていたようである。
 マサカはその言葉に顔色を変えず、ノヴァの額を手のひらで押し返して体を離すと、懐に手を居れながらカウンターへと歩み寄った。

「ああ、失礼致しました。怪しいかもしれませんが、僕らただの旅人デス」

 作り笑いを浮かべ、マサカは懐から麻袋を取り出すとカウンターへと落とす。
 カウンターに落ちると同時に金属の擦れる音が聞こえ、反動により麻袋の口が開き、中から金色の通貨が見えた。

「僕らのことは内密に。ネ?」

 人差指を口元に立て、店主にぐっと詰め寄り麻袋を勧める。
 開いた口から見える量だけでも、一月は生活できる確かな金額が入っており、そして、麻袋の膨れ方からしてそれは、半月を悠々と暮らせる程でもあった。
 店主はごくりと喉を鳴らして麻袋を手に取る。それを見るマサカは、満面の笑みを浮かべていた。

「では、確かに。ネ」

 それだけ言うとカウンターから離れ、後ろで待っていたノヴァと共に部屋へと入っていった。

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