18

「なんだか胡散臭い笑顔ばかり振りまく人物に会いますね…」
「そう言われればそうかもね」

 マサカの背を見送り、イリスがため息まじりにそう言うと、ソアは乾いた笑いを零しながら頷いた。

「そうか? でも、悪い奴でもなさそうだけどな」
「また危機管理の出来てない発言しますね…」
「また馬鹿にして…。イリスが人を疑いすぎなんだよ」
「馬鹿にしてるわけではないんですよ? ただエリスが馬鹿みたいに信じすぎているから、こちらも気を使っているんです」
「馬鹿馬鹿言うなっつーの!」

 また何度目か分からない、終わりの無い双子の口論が始まりかけている。
 それにはソアも既に慣れたようで、気にも止めずに二人の名前を呼んでこちらに視線を向けさせた。

 「…ほら、置いてっちゃうよ?」と、宿屋の扉を少し開けて見せれば、二人の仲裁完了であった。


 すぐ目の前にカウンターがあり、そこにふくよかな老人が立っている。
 扉から見えた三人の顔をみると、店主であろう老人はとても優しそうな笑顔を浮かべ、白い口髭を撫でながら声をかけてくれた。

「ああ、旅人さん、ようこそ。話は軍士隊長殿から聞いてるよ」

 老人はゆっくりとカウンターから出ると、三人を招きいれ、先頭に居たソアに、部屋の鍵を二つ丁寧に受け渡した。

「え? お部屋二つもなんですか? 一つで大丈夫なのに」

 ソアは申し訳なさそうに店主へと尋ねているが、その後ろに居る兄弟は鍵の存在に思わずほっと息をついた。
 とってくれた部屋に我儘など言えないが、流石に年頃の少女と共に部屋を共有するのは、イリスでさえ気が引けた。
 そんなソアに、店主はイリス達の表情も見てか可笑しそうに笑う。
 
「はは、仲良しだね。でも、部屋は広い方がいいだ…」
「おおきにー! おっちゃんここって部屋あいとるー?」

 店主の言葉半ば、宿屋の扉が壊れてしまうのではないかと思うほど盛大に開けられ、快活良い声色が響いた。

「ああ! 心配せんでもちゃーんとお金は持ってはるよ」

 にっこりと笑顔を浮かべ立っていたのは、おっとりした顔立ちではあるが、誰をも魅了する美しい肢体を持った少女であった。

 燃えるような赤髪は、一見ボーイッシュに見えるほど短く切られていたが、癖のある髪質のお陰か柔らかな印象にも見え、少女が動くと後ろで結われた三つ編みが、可愛らしく跳ねた。
そこには大きな赤いリボンがつけられており、更に可愛らしい。

 だがその少女の服装に、二人は目のやり場に困ってしまう。
 と言うのも、服を着ていると言えどトップスは胸元しか隠れておらず、少女の豊満な胸を隠すことなく、惜しげなく大きく開かれている。
 女性も羨むような体つきをしており、美しく伸びた脚もこれもまた隠すことなく露わになっている。
 丈の短い赤いスカートは、横にスリットが入っており、少女の美しい太腿の付け根まで見えている。
 スカートの正面にはシャルトの紋様を一部削ったようなものが描かれていた。
 右手だけに手の甲だけが隠れる手袋をし、右足は太腿までの黒いタイツに、膝下からの赤のブーツ。左足は右足と同じ長さの黒のブーツ、とアンバランスである。

 店主は入ってきた少女をみると、申し訳なさそうに眉を下げる。

「いやあ、すまんね。今部屋は満室なんだが」
「ええー! そんなけったいなあ!」

 店主の言葉に赤髪の少女は、垂れた緋色の瞳を潤ませながら近寄ると、滑らかに腕を取りぐっと顔を近づける。

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