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角を曲がり左手に宿屋が見えたが、そこには先程までは無かった小さな露店が出ていた。
短く切りあげられた黒髪に、この辺りでは風変わりな格好をした青年が椅子に腰掛けている。
その前に小さな簡易のテーブルが置かれ、赤いクロスが引かれている。その上には水晶が置かれているのが見える辺り、占い師であろう。
その人影にほっとするが、特に声をかけることもないので素知らぬフリをしながら通りすぎようとするが、青年はこちらに気付くなり満面の笑みを浮かべ口を開いた。
「おやおや、見かけない顔ですネ」
少し癖のある話し方をする色白の青年は、拳を並行に合わせて頭を下げる。
挨拶の仕方が少し変わっているが、これはフェアプス大陸の僻地に居る民族の挨拶であった。
「ああ、今日此処に来たんだ」
エリスが短く返すと、青年は釣りあがった目を凝らすように細めると、その金の瞳でソアを見つめ、口角をあげる。
「…面白い。特にそこの貴女!」
「あ、あたし?」
「強い光を放ち、だがとても無垢でアル…貴女の運命を占ってモ?」
軽やかに立ち上がると、ソアの手を取り満面の笑みを浮かべながら小首を傾げる。
「や…お金ないですし…」
「勿論お金は不要デス」
「タダほどタチ悪いものはないですから」
占い師であろう青年の手を、イリスが取り払ってそう言うが、青年は不満そうな顔をするでもなく、にこにこと笑顔を浮かべるのみである。
「まあそう言わずに! これからの旅先のことも気になるでショウ!」
「…いいんじゃない? 何もないって言ってるし…」
イリスの背に守られていたソアが小さく声をあげると、隣で大人しくしていたエリスが目を細め、彼女を見た。
「お前、さりげなくやりたげだな…」
「だ、だってやってもらったことないんだもん…」
図星であったのか、ソアは少し顔を赤らめるが、すぐに不貞腐れたように頬を膨らませる。
二人のやり取りを覗き込むように見ていた占い師は、クスクスと笑うと目の前に立ちはだかるイリスに問う。
「彼女もこういってるし、イイでしょ? 私はマサカ。占い師をやってますが、これでも、とても当たると巷では有名ナンデスよ」
占い師はマサカと名乗ると、怪しく口角をあげてみせる。
その言葉にソアは目を輝かせ、マサカへと近寄るがイリスは頭を抱え深いため息を吐いた。
「…もう…知らないですからね」
だがしかし、その声は誰にも届くことは無かった。
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