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「至急フェテス村に隊員を送れ。兵を拾う」
「了解です!」

 クレデルタの声に隊員達がそう声を揃えた。
 程無くすると二・三人の兵士たちが足早にジュナから出て行くのが伺え、その姿を見送ると、軍士隊長はこちらに向き直り口を開く。

「私は軍士隊長のクレデルタ…。貴方達の事はブログントから噂には聞いております。ブログントの幼なじみ、でしたか。部下達の事には感謝します」

 こちらへと向き直ると軍士隊長、クレデルタは一般市民であるはずのイリス達に深く頭を下げる。

「いえ、そんな恐縮です…。それより、軍士隊長は何故ここに」
「…最近連れ去り事件が起こっているので、その調査に…とだけ」

 イリスはふとした疑問を口にすると、クレデルタは言葉をわざと選ぶようにそう言う。
 それにはソアは少し動揺を見せた。
 クラーフの町での事を思い出したのであろうが、すぐにいつも通りの表情を浮かべるが、クレデルタは見逃さずにソアに尋ねる。

「どうかしましたか?」
「あ…いえ何でもないんです! ただ、確かにそう言った事があるって事聞いていたので」

 ソアも当たり障りない言葉を選びながら答えると、見えている青の瞳に少し影が刺した。

「…そうですか。貴方はクラーフの方という事ですね」
「え? あ、はい…そうですけど…」

 ソアはその質問の意味が分からずに、不信感を抱くがなにが言いたいのかとは言わずに口を閉じた。
 するとクレデルタは先程とは打って変わり、優しげに微笑む。
 それはまるで天使が微笑んだようにも見え、初め冷たく見えた印象は、すぐに溶けていってしまう程だった。

「…ここは素敵な場所です。残念ながら今日の検問所は既に終わってしまいましたから、ここから出ることは出来ないのです。今日はここの宿屋で泊まることをおすすめします」

 そう言ったクレデルタは、側にいた兵士を呼ぶと耳打ちする。
 兵士はそれに一つ頷くと、足早に去って行ってしまい、呆然と見ていた三人にクレデルタは言う。

「わざわざ我が兵士達の為にありがとうございます。宿はこちらで手配致しましょう」
「え、そんな、大丈夫ですよ!」
「好意には甘えるものですよ…エリス君。せめて何かさせてください」 
「…ではそうさせて頂きます。今から戻っても、帰るのが遅くなってしまいますからね」

 イリスはそう言うと、隣に居るソアに尋ねる。

「ソアはそれでも大丈夫ですか?」
「うん! 私は大丈夫だよ!」

 ソアも同意をすれば、話は決まったと同じである。
 クレデルタは三人のやり取りを見ていたが、話の纏まりに安心した様に微笑む。

「ならば良かった。宿はこの道の先、左手にあります。慣れない旅路お疲れ様です」

 労りの言葉も添え、三人に頭を下げると踵を返してその場から立ち去ろうとするが、何か思い出したのか「…ああ、」と声をあげる。

「今日の夜、少し騒がしくなるかもしれません。宿から出ない方がいい…」

 クレデルタは首だけを動かし左向きに振り返りそう言った。その声色は、恐ろしいほど冷たい。
 金糸に隠されてしまい、その表情を確認する事は出来なかったが、先程まで浮かべていた優しげな笑みが、まるで嘘のように感じられる程だった。
 思わず口をつぐんでしまった三人を知らずにか、クレデルタは残る兵士を率いて大通りを進んでいった。

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