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 兵士達の中でも圧倒的な強さを誇るルベウスを見つめ、その姿を思い返していると、我に帰ったように背丈の小さい兵士が小首を傾げる。

「ん? 待てよ? ルベウス大佐は燃えるような赤髪と…」

 その言葉に体格の良い兵士があ、と声をあげ二人、お互いに目を合わせる。

「おい! さっきのやつを追えー! 偽物だー!」

 門をくぐり、すぐに民家の納屋に隠れ込んだイリス達は、その間抜けな兵士達の声が遠ざかって行くのを聞いて安堵の息を吐いた。
 ただ、一人を除いてだが。

「…さっきから笑いすぎなんですが…」

 そうイリスが溜め息を零して、背後で声を殺して笑っているルベウス、もといその名を語る紫髪の男を見上げる。
 男は目尻に涙を浮かべながら笑っていた。

「いえ、だって…こんなに簡単に騙せるだなんて思わなくて…くく、すみません…」

 どうやら兵士達があまりにも滑稽だったようで、男はそう言ってまた笑うが、イリス達はそれどころでは無かった。
 いつ気付かれても可笑しくない程大胆な嘘に付き合わされたのだから、とてもじゃないが肝が冷やされた。
 だが兵士達の間抜けさも拍手をかけてもいたのかもしれないが、彼の鮮やかな手口には舌を巻くしかない。

 イリスはその端正な顔付きをした男にまた視線を戻すが、何故か素直に感謝の言葉が出てこない。
 彼の行動、表情、それはまるで作り物のようであり、イリスは男を疑わずにはいられなかったからだ。

「…手助けして下さってありがとうございます」

 イリスの表情とは裏腹の言葉に、呆然としていたエリスも続く。

「あ、俺からも! ありがとうございます。えっと…」

 エリスは彼の名前を呼ぶのを躊躇った。
 それはそうだ。彼は先ほど偽って名乗ったのだからイリス達が知る由もない。
 そんなエリスに、彼は涙を拭うと「ああ!」と大袈裟に声をあげて先ほどの兵士達にもした様に恭しくお辞儀をする。

「これは大変失礼。私、ロキ・ベツァオバーンと申します」

 そう言ったロキは、流れるような動作でエリスへと手を差し出す。

「お気になされるな…どうぞロキで」
「ロキ、ありがとう! 助かった…です」
「そんなに畏まらなくて結構。私はしがない旅人ですから」

 ロキの優雅な話し方に少し蹴落とされたようにしていたエリスだが、人の良さそうな笑顔で微笑むロキに警戒心が解けたのか、エリスも人懐こい笑みを浮かべる。

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