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離村式、それは古くからフェテス村で行われている儀式だ。
もっともフェテス村の人はフェテス村に生まれ、フェテス村で最期を迎える人が多い。エリス達以外には、商人に転職したものや、王都であるシャルトに職を求めるもの程しか外の世界にはでないため、毎年出席するひとは少ない。
エリス達は十八歳とゆう大人になった。それは離村式に出席するには必要最低限の合格ライン。
フェテス村の離村式は、メマルシーニエリオス18の日に行われる事が決められている。
ノジェスティエの神である光の女神、ミズチが誕生した日がそうらしく、新しい門出に相応しいということで、シャルトの王が定めた。
「神なのに誕生日があるだなんておかしい」と幼い頃そう言ったエリスに、母は「そんなことはないでしょう」と笑って言っていたのを思い出す。
そこでエリスは何かに躓いた。何かが可笑しい。
「ん?」
またもや間抜けな声をあげたエリスを見て、不服そうな表情を浮かべたイリスは、溜め息を一つつくと口を開く。
「思いだしましたか? 大人のエリスくん」
「………」
「思いだしましたか?」なんて悠長な言葉では済まされないが、済まされてしまったのは現実だ。
(そうだ…今日は離村式なんだ)
離村式に遅れたならば、それは自分の責任だ。来年の今日まで待たなければならない。
枕元に置いてある時計を見てみれば、離村式が始まろうとする刻限を差そうとしていた。
ひんやりとした汗が伝い、エリスはゆっくりとベッドから降りて、ベッドの脇に置いてあるブーツを履くと、ベッドから這い出る。
そしてまたゆっくりと顔をあげ、イリスに向けた顔といえば、それはもう何とも情けない顔だった。
「お、思いだしました!」
そんな叫び声にも近い声が響いた今日の空は、青く高く美しい。
それは、今日と言うこの日が、ノジェスティエの運命の歯車を回し始めていたことと知らず、美しかった。
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