4
なら何だろうかと自問自答してみるが、やはり全く思いつかない。
誰かの誕生日か何かと考えたが、親しい人の誕生日はきちんと祝ったはずだ。
それに、こんな朝早くから出掛ける必要もないだろう。
自分なりに考えたつもりだが、何も浮かんではこない。お手上げだといった顔をイリスに向けると、その顔をみたイリスはとても呆れた様な顔をしていた。
「僕達、今いくつでしたっけ?」
子供をあやすような言葉と態度に、エリスは不満を口にしなかったが心を落ち着かせる。
イリスには絶対、誰も口では勝てない。エリスはそうわかっていたからだ。
「十七、ん? 昨日で十八になったんだ!」
昨日は幼馴染の家で二人の誕生日会を開いてもらったのを思い出し、「楽しかったよな」とイリスに問いかけると、彼は優しそうな笑みを浮かべて「そうでしたね」と返してくれたはいいが、それは作り笑いであるのが分かった。
恐る恐るイリスを視界にいれると、彼はまた先程よりもにっこりと笑みを浮かべる。
「本当に忘れたんですか?」
イリスの口の端がつったのを、エリスは見逃さなかった。
先程より声のトーンが落ちているし、何よりも笑顔が怖いのだ。
十八年間連れ添った自分の中の本能が危険信号を出す。
(今のイリスはすこぶる機嫌が悪い…!)
「わ、忘れたんでしょうね…」
誤魔化しに笑ってはみたものの、乾いた笑い声しかでない。
その誤魔化しに気付いたのか、イリスは先ほどよりも不気味な笑顔へと変化をとげてゆく。
「それでは…」と一つ小さな咳をわざとらしくすると、イリスが人差し指を立てながら口を開いた。
「問題です。僕達が十八になると獲られる特権はなんでしょう、か!」
その問題に、強ばっていた体が解れていく。
イリスの事だから常識的に考えて、どこの学者が見つけだしたか分からない難問でもだすのかと思ったからだ。
これはチャンス、汚名返上のチャンスである。
先ほどのイリスとのやり取りで幾分かは覚醒した頭をフルに使い、教科書に書いてある文章を並べていく。
「えっと…このノジェスティエで大人として見なされ、フェテス村での離村式に出る権利が与えられる。それに参加した者には旅券が配られ、そして、武器を所持する事が認められる」
そうだろ? と、誇らしげにイリスを見れば、また呆れ顔を向けられた。
何か間違えたのであろうかと自分の言った言葉を思い返してみるが、何も思いあたる節が見受けられない。テスト用紙に書けば大正解だ。
そう、小さい頃からあんなに待ち望んでいた離村式の内容を、忘れるはずなどないはずだ。
←/→