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「まあ、嬉しい! 外の世界を見るのも、あの子にとって何かの刺激になっていいんじゃないかと思っていた所だったの」
「そうっすね! まあ、ソアなら俺たち居なくとも強ぇし、なんとかなるとは思いますけど…」

 エリスの言葉には思わずイリスも頷いてしまった。
 ソアの戦いぶりは盗賊との時に見ただけだが、技術も能力も、どれも舌を巻くほどである。
 アニマは晴れやかな色を顔に浮かべると「護身用にと思ってね」と安堵させるような口軽な言いぶりをする。

「護身用…」

 そう、エリスはそう引きつった声で笑う。
 護身用にしては些か強力、いや凶悪的すぎるのではないかと思ったのだが、一番に思う事はソアにそれを教えたのがアニマだとすると、この優し気な老婦人は一体何者なのだろうかと思う。
 エリスの言葉には出さなかった心の声が伝わったのか、アニマは「護身術はね」と呟く。

「若い頃にノジェスティエ中を回ったからだわね。嫌でも覚えるものよ」
「…そんなもんなんすかね」
「そうよ。でも腕っ節は強いと言えどソアはやっぱり女の子でしょう?私が側にいてやりたいけど、この足じゃねえ…」

 思い返せば、アニマは左足を庇いながら歩いており、それは年齢から来ているものではないのは薄々気付いていたが、アニマ自身から聞けるとは思わなかった。

「若い頃に無茶をして負った深い傷でね…神経がもう駄目になってしまったようよ」

 アニマは自身の左足をさすりながら苦笑する。
 イリスはそんなアニマの顔を覗きこむように小首を傾げると、目を細め優し気な声色で言う。

「アニマさん、無理も心配もなさらないでください。帰りも必ず連れ添いますから。ね、エリス」
「ああ! 約束するよ、アニマさん。ソアは俺たちが守る。俺たちもソアに負けないくらい強いからさ、だから心配しないで」
「…あらとても頼もしい。やっぱり紳士的な方たちだったのね」

 アニマは柔らかい笑みを浮かべてそう言うと、イリスは得意気な顔をして「実はそうなんですよ」と笑い返す。
 それに可笑しくなって、アニマは吹き出して笑うと、「そうだわ」と目尻の涙を拭いながら時計に目をやる。
 「楽しくって話しこんでしまったわね」そう言いながら右側の足に重心を掛けて立ち上がり、二人を見下ろし小さな子供に言い聞かせるように優しく笑う。

「夜は冷え込むから、暖かくして寝てね。遅くなってごめんなさい。おやすみ、イリスさん、エリスさん」
「そんなことないっすよ! おやすみなさい!」
「おやすみなさい、アニマさん」

 ぱたん、と楽しい物語の本を読み終えたように音を立ててを閉めた。
 まだ扉の向こうからは、嬉しそうな声が聞こえ、アニマは二階に居る少女を思い浮かべ、ほくそ笑む。

「ああ、とても楽しくて幸せな気分だわね」

 ぽつり、と漏らす。
 灰色の世界に、色が戻ってきたのをしんしんと身に感じ、離したくないのだと知っている。
 それが一時の幸せだと知っていても、アニマには十分過ぎる程だった。


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