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「捨て子なんて珍しいことでもないけど、ソアは記憶喪失で、帰る場所も、自分の名前も分からない。もう一年になるのかしらね…そんなソアと一緒に暮らすようになったのは」
「そう、だったんですか…」
だからソアはあんなにもアニマを好いているのかと、エリスは納得がいった。
このご時世、アニマが言った通り自身で産んだ子すら何らかの理由があり捨てられたり、預けられる。
両親を無くし親族に引き渡されることもあるが、それすら出来ない現実もあるのは知っている。
そうだと言うのに、アニマは見ず知らずのソアを保護し、そして誰から見ても分かる様に彼女を心から愛している。
アニマはふと窓に目を向けると、物悲しそうに言う。
「でもね、ソアはもう私の大切な娘なの。だからあの子には幸せになってもらいたくて…自由になってほしいの」
エリス達はその言葉の意味は分からなかったが、それが何とは聞くことは出来ない。
会って間も無く、何かを言える立場ではない。それに、当たり前かもしれないが、二人にはまだ深く語らない部分があり過ぎるのは分かっていた。
ただ、エリスには自信を持って言える事が一つあったのだ。
クラーフでアニマの事を含め責め立てられたソア、ソアの事を想うアニマや、今日の夕飯の時の二人の表情。
「…ソアがアニマさんの事を大切にしている理由が分かります」
「え?」
「もう、家族なんですね。そういう絆って、絶対に、誰にも、切れる事はないって、俺凄く思います」
エリスの言葉に、アニマは何も言わず、いや何も言えずにの方が正しいのかもしれないが、零れてしまいそうになる言葉を口を結んでしまいこみ、足先を見つめて長い息をつく。
「ありがとう…」
顔を上げそう言うアニマは、涙が出るのをかろうじて堪えて居るのだろうか、少し目線を上に上げると晴れやかに、充足した表情を浮かべる。
エリスはアニマの表情で自分の言った言葉を思い出したのか、気恥ずかしさにくすぐったそうに笑った。
アニマはきつく目を瞑り、目尻を抑えるように拭うと二人に真剣な面持ちで話し始める。
「…こんな話をしたのは、少しお願いかがあっての事なのだけど、良かったら聞いてくれるかしら」
「何でしょうか? 僕らでよければ喜んで伺いますが」
「明日はジュナに向かうと言っていたわね。その時に、良かったらソアも一緒に連れて行ってあげてくれないかしら?」
イリスは予想して居なかったことに目を丸くしたが「別に構いません。お安い御用です」と二つ返事で頷くと、アニマは嬉々として顔を綻ばせる。
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