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「似ているわ…本当に」
アニマはそう言って、一瞬見せた柔らかい眼差しは、今は少し寂しそうに細められていた。
イリスはその眼差しに、少し心に靄がかかる。
「似てる? 僕らがですか?」
「勿論貴方達はね。…違うわ、私の息子にね、とっても似ているのよ、二人が」
イリスはそこで全てのパーツが揃ったのを感じ、部屋をちらりと視界の隅で見る。
「息子さん…ですか」
「もう何年になるかしら、そうね、15年かしら。もうこの世には居ないのだけどね」
思い起こすように、だがまるでそれがアニマにとってはそれが目の前にあるかのように話すのだ。
「それは…」
エリスがアニマの顔色を伺うと、婦人は酷く穏やかに二人を見つめる。
「ソアが貴方達を連れてきた時、ウェリタスが戻ってきたのかと思ってしまったぐらいなの」
「…ウェリタスさんが、この部屋の持ち主の方ですか?」
イリスの問いに、アニマは少し驚きを隠せない様子であったが隠す事もせずに素直に頷いた。
「…ええ、そうなの。ごめんなさいね、使える部屋がここしかなくて」
「いえ、そういう訳ではないです。こんな親切にして下さる方は居ませんよ」
イリスはこぼれる様な親しみを満面に浮かべそう言うと、また周りを見渡しふと尋ねる。
「ご子息は本が好きだったんですか? 興味深い内容の物が沢山あります」「ああ、そうね。私に似ずに頭が良い子で、まあ少し研究熱心すぎたかもしれないけど…」
「研究者だったんですか?」
「ココルタールの研究所に勤めていたの」
「ココルタール…ですか。すごいですね!」
「あら、やっぱりそうなのね。私はそうゆうことには疎くてね」
二人はその言葉に母の事を思い出し、顔を合わせてほくそ笑む。まさかこんな偶然があるとは思わなかった。
アニマは不思議そうにしたが、エリス達の穏やかな表情に暖かな眼差しを向ける。
「…本当に、ウェリタスが戻ってきてくれたようだわ。最近はなんだかとても良い出会いばかり。お二人に…そしてソア…」
「ソア…?」
エリスは素っ頓狂な声をあげる。
するとアニマは意外と言った顔つきでエリスに尋ねる。
「私と彼女、似ているかしら?」
エリスは首を傾げ、頭の中を一枚ずつ捲りながら考えてみると、腑に落ちない点がいくつか浮かび上がってくる。
親子であるなら、まずは髪、瞳の色、肌の色、それを色源と言うのだが、そこが遺伝する。
エリス達の様に、父親だけの色源を受け継ぐのも珍しくもあることなのだが、村人達の辛辣な言葉達が蘇り脳裏に火花が散る。全てのパーツが揃い、はめこまれた。
「その…そうでしたね。すみません、俺聞いていたけど、そうじゃないと思いたかったのかもしれない」
「いいのよ。そうね、ソアはね、私が保護した子なの」
どうしたらいいか分からないエリスを宥める様に、アニマは優しく笑いかけ、訥々と話し始めた。
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