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上手い言葉は一切出てこなかった。
エリスの声には覇気などなく、二人に話しているうちに今日の事を思い出しては、苦虫を潰したような顔になり、深いため息をついた。
「そんなことが…」
一部始終の事を話し終えると、イリスは驚きを隠せずに瞳を揺らし、ため息を交え呟く。
エリスは落としていた視線をあげ懇願するようにイリスを見た。
「イリス、今のことは内緒にしてくれよ。…あいつ、きっと…」
「分かっています」
エリスの言葉を皆まで聞かずとも分かったのか、イリスは優しく微笑みエリスの肩を元気付けるように叩いた。
エリスはそのまま目の前に座るアニマ
を見据えると、その表情があまりにも傷付いているのがまた胸を痛めた。
やはり、言うべきではなかったのだろうかと後には立つことがない後悔をする。
易い言葉など吐くつもりはないが、今はどんな言葉ですら易く感じられてしまうのだろうと思ったが、黙りこくる事などエリスには出来ず、あの時あの場所で心に思っていた事を告げる。
「…でも、ソアもアニマさんも絶対に悪くない。聞いてて村の人たちの言ってる事がむちゃくちゃだったの俺ですら分かりましたから」
「…ありがとう、エリスさん。でも、そうね、それは酷すぎる…。闇の加護…」
エリスの言葉に悲しさを隠しきれない笑顔を浮かべ、アニマは譫言のように呟き、視線を落とした。
「あの…アニマさん…」
「全ては私のせいね。何も守れないの、昔から大事な人を」
ぽつり、悲痛な言葉が零れた。
その言葉に、とうとう二人は何も声をかけることができなくなった。
その言葉はソアに向け、またソアに重ねて誰かを想っている言葉だったからだ。
凍りつく沈黙の中、声を掛けようとイリスは口を開けたが何も言えずに口をつぐんだ。
すると二人の沈んだ顔色に気付いたのか、アニマは跳ねるように目を大きく見開き夕食の時と変わらぬ快活な声色で二人を見ながら苦笑する。
「あら嫌だ。雰囲気を暗くさせちゃったわね。とりあえずありがとう、エリスさんにイリスさん。きっとソアも貴方達に会えたのは幸運なことね」
「いや、そんな。大袈裟すぎますよ」
エリスはアニマの笑みにやっと落ち着いたのか、固まっていた表情は和らいで気恥ずかしそうに返す。
「そうですよ。それに、その言葉は僕らが言いたい。アニマさんやソアの様な強い人に会えて、とても良かったと思っています」
イリスは僅かに傾げ、そう微笑みアニマを見遣ると婦人は失ってしまった華やかな時間を思い出すように、一層和んだ目を投げる。
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