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そんなエリスは案の定身震いすると、剥がされてしまったシーツをイリスから奪って体に巻いていく。
右手には手首まですっぽり隠れる少し長めの黒い革のグローブをしていた。寝ている間も身に付けていたのであろう。
「ハロー。イリス」
二度目の欠伸を咬み殺しながら、エリスはイリスにそう言った。
「はい。おはようございます。準備してくださいね」
微笑を浮かべ、イリスはそう返すと寝室から出ていくが、当の本人には『準備』の意味が分からず、エリスはそのままベッドの上で呆けていた。
するとそんなエリスを見ていたイリスが、盛大な溜め息を浸きながら隣の部屋から、エリスの服を丁寧に畳んで持ってきた。
「何ぼーっとしてるんですか。早く着替えて下さい。風邪引きますよ」
「ん」
エリスにそう言った彼といえば、もう既に出掛ける服に着替えていた。
薄い青に染まった、胸下までの短い上着は、アンバランスに袖は長く、縦に黒のラインが入っている。
その中に胸が大きく空いている白のインナーに、丈が長く縁に黒のラインが入った腰巻きの上からベルトで絞めていて、黒いズボンは少しゆとりのあるものに短めのブーツを履いている。
イリスの髪は肩に着かない程度で、銀色の髪は窓から射し込む太陽の光でキラキラと輝いていた。
エリスは今日もまた平和な一日を思い描きながら、窓の外を覗くと、窓から丁度よく風が舞い込む。
思わず溜め息をつきたくなるほど平和で、そしてこんなにも綺麗な朝だというのに、珍しく落ち着きのないイリスが居るのでエリスは疑問を抱き口を開いた。
「…今日何かあったか?」
右手で目を擦るが、革の感触に違和感を感じ、エリスは左手で目を擦り直す。
「え──」
すると少しぼやけた視線の先で、イリスの行動が止まった様に見えた。
「忘れたんですか?」
「は?」
理解し難い返答に、素直な気持ち故に即答でエリスが返すと、イリスは今日何度目か分からない溜め息をついた。
だが何が何だかわからないのだからしょうがない。
今日は何かあったのか? 朝起きたばかりの真っ白に近い空っぽの頭で、その何かを思いだそうとする。
母さんの命日? それとも父さんの? いや、そんな大切な日を忘れるはずなありえない。
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