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 食事が終わると、アニマに風呂に入るよう促され、汚れきった体を清めた。
 風呂に入る機会を見失っていたエリスは一皮向けたような気持ちに、もう気持ちは睡眠の二文字に走る。
 二人はアニマとソアに挨拶をすると部屋に戻り、そして一つ悩んだ。

 それは目の前にあるベッドの事。
 もちろんそれはシングルベッドで、昔なら二人仲良く身を寄せ合って寝ていただろうが、既に体は成人男性よりも体つきがいいイリスとエリスにそれは些か窮屈である。

 結局譲り合った結果に行き着いたのは、なにが何でも二人並んで寝ること
だった。
 窮屈なのも、またそれも旅の醍醐味だ、と言ったのはエリスであったが、この狭さにも慣れて今後の旅路の事を話しているとドアがノックされた。
 イリスがそれに気付きドアを開けるとアニマが顔をだし、ベッドを見ると「ごめんなさいね」と苦笑しながら呟き、毛布とシーツをイリスに手渡した。

「それでは少し狭いわよね。下に敷く形になってしまうのだけど、良かったら使って頂戴」
「すいません、ありがとうございます」
「何から何まで、本当にありがとうございます」

 エリスも急いでアニマの元に駆け寄って頭を下げると、婦人は優しい笑みを浮かべ首をふった。

「とんでもない。いいのよ。あの子があんなに笑ったんだもの。少しでもお礼をしたくてね」
「ソアの事ですか?」

イリスがそう尋ねると、アニマは少し困ったように笑う。

「そうね…いきなり友達を連れてくるからびっくりちゃったわ」
「あ、すみません…」
「あら、そういう意味じゃないの。わたしこそ誤解されちゃう言い方してしまってごめんなさいね、エリスさん」

 ふふ、と口元を抑えて笑うと、アニマは悲しげに目を細めた。
 少しいいか、とアニマは尋ねる二人は狐に包まれた気持ちになるが頷くと婦人は後ろ手でドアをゆっくり閉め、真剣な声色で首を傾げる。

「…今日、クラーフで何があったか教えて貰えるかしら」

 その言葉に、二人は思わず言葉を飲んだ。
 アニマにはクラーフでの出来事については、何も言っていなかったからだ。
 それを匂わせることも無かった筈だと、イリスは認識している。
 食卓を囲んだ時は、他愛もない話ばかりであったし、ソアも暗い表情をしていたとは思わない。

 勿論ソアからアニマにあの出来事を言う事はないのだろう、とエリスは思った。
 あの時村人が言っていた人物は、ソアだけではなく、思い返せばアニマに対する事もあったからだ。

「ソアはとても強くて優しい子なの。だから、わたしには心配をかけまいと何も言わないのも知っているの。娘ですもの。すぐに分かるわ」

 アニマはそう言って、瞳に寂しさを宿らせ、悲しげな顔に笑みを乗せてそういった。
 その表情を見ているのは酷く辛く、エリスの胸を抉り、思わず床に目線を逸らした。
 この場にいる中であの事を知っているのはエリスだけなのだが、ソアがアニマにまで言わなかった事を言うのは少々躊躇われた。

 イリスが横目にエリスを見ると、ちろりとどうしようかと視線で尋ねてくる。
 イリスもその事について知っていないのだから安易に判断は出来ずに、肩を竦ませる。
 あれはソア一人が抱えることではないとエリスも思っていたが、話すとなるとやはり別だ。
 ソアもアニマも、クラーフの村人であっても、エリスにはどんな事情があるかはわからないからだ。

 一人思い悩む中で長い息をつくと、エリスは顔を擡げ重い口を開いた。


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