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部屋の明かりを灯すと、部屋にはびっしりと厚い本が詰められた本棚と、纏められた資料が積み上げられてはいたが、ベッドや机があるのからして、用途が物置きとして使われているのではない事が分かった。
だが、その部屋はその持ち主がいないのだろうか。部屋の時計の針は淋しそうに止まっている。
そして何よりも感じるのが、この部屋には生活感がないのだ。
埃一つないものの、綺麗にベットメイクされたベットも、止まった時計の針も、全てがそう感じさせる。
二人は違和感を感じながらも、アニマ達を待たせてはならないと思い、荷物と上着を置くと部屋を後にした。
リビングに戻ると、さあさあ、と声をかけられ流されるままに席に付かされた。
食卓に、次々と夕飯が並べられる。
温かな湯気をあげるクリームシチューに、色鮮やかに飾られたサラダ。エリス達は喉をならす。
思い返せば、今日は朝から何も食べてはいなかったのだし、村を出てから簡易な調理をしたもので、碌なものを食べていなかった。
最後にクラーフの町でソアが配達した香ばしい匂いを漂わせたパンが並べられる。
アニマとソアが席につき「さあ、頂きましょうか」とアニマが言えば、お腹の虫は更に暴れ始めたのであった。
「…美味すぎる」
エリスの第一声は歓喜にあまり震えていた。
「このシチュー…ホワイトクリームが絶妙すぎる…!」
目を輝かせながら、エリスはシチューを作った張本人であるアニマを見つめると、アニマは肩を竦ませ目を細めて微笑んだ。
「あらあら、お口に合って嬉しいわ」
「本当にどれも美味しいです。このパンもアニマさんが焼いたものなんですよね?」
イリスはそう言って焼きたてのバゲットを咀嚼すると、満面の笑みを浮かべる。
香ばしい麦の香りのまだ暖かいバゲットに、クリームシチューをつけて食べるのもそれもまた美味しい。
「ええ。いつもそれをソアが届けてくれるのよ」
がソアの頭を撫でながらそう言うと、ソアはとても嬉しそうにほくそ笑む。
「ね、美味しいでしょー! アニマさんの焼くパンだって、ご飯は格別なんだから」
「お前が胸はれる事じゃねえだろ…」
「なによ、エリス文句あるの」
エリスとソアの言い合いに、いつもなら仲介するイリスさえ止めに入らなかった。
二人の表情は穏やかであるし、それは、家族で囲む食事の幸せの中の光景であったかのように見えたからだ。
アニマはエリスやイリスと、談笑するソアを見つめ、優しげな微笑みを浮かべながら、シチューを一掬いした。
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