18
「エリス!」

 ふと耳にしたのは自分の名を呼ぶ声で、エリスは立ち上がり周りを見渡すと路地へと向かってくるイリスを見つけた。

「イリス、どうしてここに!」

 イリスの元に駆け寄ると、イリスはおもむろにエリスの顔を両手で掴み覗き込む。その顔は至極心配した様な顔をしていた。
 それには流石のエリスも驚きを隠せなかったが、イリスからの「怪我はないですか」などとのいつもの小言が始まり、エリスは息を吐くと苦笑する。
 毎度のことながら、イリスは心配性だ。

「俺はないから大丈夫だよ」
「ならいいんですけど…。おや、ソア? 一体何があったんですか?」

 エリスの言葉に平静を取り戻したのか、イリスは一つ息をつくと、いつもの様な声色に戻った。
 そうすると視野も広がったのだろうか、漸く背後にいたソアを見つけると、ただならぬ事があったことを悟ったのか、イリスの表情は硬くなる。
 エリスは言葉を濁すが、イリスには下手な嘘は通じないのは知っていた。

「…実は俺もよくわかんねーんだけど、ソアがこの村の奴らに言い掛かりつけられてて、その喧嘩に止めに入ったんだけど、更にヒートアップしたから逃げた」

 内容を省き、そう簡潔に説明すると、イリスは鼻をならす。

「…なるほど。いきなり宿屋の店主が、僕の顔を見た途端に出てけって言うもんですから。エリスが何かしたんだと思ったんですけど、案の定その通りでしたね」
「案の定ってどうゆうことだよ!」
「そのままの意味ですけど?」
「う…」

 イリスはにっこりと笑いながらそう言うと、威圧感ならぬものを押し付ける。

「同じ顔なんですから、僕にも被害があるって事忘れないで下さい」

 眉間に皺を寄せながらに言うイリスに、エリスは苦笑して謝罪の言葉を呟く。
 とはいえその表情は極めて優しげなもので、エリスは小さく笑った。
 そうしてイリスは、ソアへと視線を変えると悲しげに顔を暗くする。

「…ソア大丈夫ですか? こちらへ」

 イリスはそう言うと手を伸ばし、腫れ上がったソアの頬に触れる。
 その頬を見ると一層眉根を潜めたが、息を一つつき、いつもの優しげな声色で伺う。

「どうです? 少しは和らぐとは思うんですが…少し我慢して下さいね」

 イリスの触れる部分から、やんわりと優しい風が頬を撫で、心地よい暖かさにソアは目を細めた。
 痛みがだんだんそれとともに消えていくのを感じる。腫れていただけかと思っていたが、どうやら頬骨にまでひびが入っているとイリスが呟く。

「…ごめん、イリス。あの…」
「…何も言わなくて良いんですよ。それに、こうゆう時はありがとうです、ソア。…痛みは?」

 イリスはソアの頬から離れると、微笑みを浮かべ小首を傾げそう尋ねると、ソアは先ほどまでイリスが触れていた所を恐る恐る触れる。


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