15

「…ごめ、」
「なんでお前が謝んだよ!」

 次にはソアの言葉を遮る様に、エリスは吠えていた。

「エリス…?」

 どうにか押さえつけようとしていた怒りはもう止まらない。エリスは腹の底から湧き上がる怒りを感じとっていた。体がざわつき、怒りに震える。
 その怒りを悟ったのか、一瞬怯んだ村人たちを振り払い、エリスは立ち上がりソアの元に向かう。
 人集りであったその場が、エリスが通る道はぽっかりと空いていく。

「…お前ら言わせておけば、いい様に言いやがって!」
「何だぁ? このクソガキ!」
「ソアがディラマルカの使いだ? こいつが何したってんだよ! 勝手に言い掛かりつけてんじゃねえ! 大体何の根拠があってそんな事言うんだ!」
「そ、それは…」

 エリスがそう怒鳴りつけると、男はは狼狽え、目線を泳がせる。
 怒りに震える唇をはく、と閉じ、エリスはソアとイリスのやり取りを思い出す。

 ソアがこの町に配達をしにいく事をとても幸せそうな顔で、誇りを持ってエリス達に話していた事を。
 そして、それと同じく悲しそうな顔をしていたことを。そんな少女が何を想ってこの村人達に酷いことが出来るのだろうか。悪意があるならば、こんなに心を痛め、涙を堪えるだろうか。
 第一、ディラマルカの使いなどそんな浮世離れした話を誰が信じるのだ。ソアがこんなにまで、大勢に集られ言われるのは筋違いなのではないだろうか。

 エリスは震えるソアの手を取る。

「こいつが何かお前らにやったのか? 証拠でもあんのか? ふざけるのもいい加減にしろ!」
「余所者はひっこんでろ! そいつが俺の子を…子供を連れ去ったんだ…! 闇の妖精の生贄にしたんだあ!」

 未だ怒りに任せて叫ぶ男の声は、もはやエリスの怒りを増幅させるしかない。

「ら、ラディ! もういい加減にしろ!」

 すると、そこに制止の声がかかった。エリスの剣幕に恐れ慄いた村人たちは、男をラディと呼び、咄嗟に押さえ付けたが、男も一歩も引かない剣幕で叫ぶ。
 
「じゃぁ誰だってんだよ! こいつしかいない! こいつはな、この女はここの部外者だ! こいつが来てからだ、闇の加護が強くなったのは! こいつが全て元凶なんだ!」
「てめぇ…まだ言うか!」

 獅子の咆哮にも聞こえるような怒声に、村人たちは息を飲む。
 エリスは真白になった頭で、ソアを掴んでいた手を離して早足に男の元に足を進めたが、それは叶わなかった。


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