13

 何があったのかと止まった思考を回転させながら目をしばたかせると、今まで立っていたソアが倒れているのが見えた。
 そんな光景を目の当たりにしたエリスは、人混みを掻き分けいつの間にかソアを抱き抱えていた。

「ソア! 平気か?」

 ソアの左頬は、赤く腫れ上がっていてとても痛々しい。
 身体つきの良い男の力で、小柄な少女の頬を倒れる程に叩けばどうなるかなど考えられるのは容易な事だった。

 ソアは繊毛を震わせ、痛みに耐える為に硬く閉じていた瞼を開けると、エリスを見るなり大きく目を見開き、少し驚いた表情で見つめる。
 だがその顔は次第に眉根をひそめられ、今度はエリスが驚いた顔をする側になった。

「君…」
「あ? んだよ…」

 ソアはそう言うと、エリスの腕に手をかけて立ち上がろうとするが、それをエリスは制した。
 何であろうと、これ以上男の怒りの琴線に触れる様な事は避けるべきであると直感的に分かったからだ。

「お前な、あんまり無理すんじゃねえよ…」

 ソアが何をするかは分からなかったが、未だ男は息を荒らげながらソアを睨みつけている。
 すると男はソアを顎で指すとエリスに尋ねる。

「お前、そいつを知ってるのか?」
「だったらなんだって…」
「私はこの人を知らない」

 ソアはエリスの手を振り払い、立ち上がり、男の目の前に立つと、凛とした声でそう男を見つめる。

「無関係、です」
「何言ってんだよ…」
「…少し話しただけで身内振らないで…」

 エリスがかけよろうとすると、ソアは一瞥を投げながらそう言い放つ。
 その声はエリスを突き放す様な言葉を押し付けたが、少し垣間見えたソアの表情はとても悲しそうな表情をしていた。
 エリスは戸惑う。何かが違う。合う筈もないパズルのピースを当てはめたような感覚だ。
 そう考えていると、目の前の男は高笑いをあげた。

「知らないくせに出てくんじゃねーよ、旅人さん。こいつに関わると碌なモンじゃない」
「何言ってんだよ…」
「こいつは闇の使者なんだ。記憶がないのはこいつが人間じゃなく、闇の使者だからに決まってる」

 そう語尾を上げて、男はまたソアに掴みかかろうとするが、エリスはすぐにソアの体を引いて背中に隠す様にしのぐ。

「おい! あんたこそ碌なモンじゃねーよ。そんなの迷信だろ!」
「エリス…」

 後ろで小さくエリスを呼ぶ声が聞こえ、振り返ると震えながら服の裾を掴むソアがいる。
 エリスの胸の中はもう既に怒りで破裂しそうだった。
 この少女が一体何をしたと言うのだ。こんなにまで傷付けて何がしたいのだろうか。


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