12



 エリスは宿から出ると、思うゆくままに歩を進めた。
 日が暮れた町は淡いオレンジに包みこまれ染めあげられる。
 いつも見ていた夕焼けも、フェテス村でなければ別物だ。

 クラーフの町は、フェテス村と似ている。違う所をあげるのならば、この町は高い塀がない。あれはフェテス村独自のものかは分からないが、塀もないこの町には、自由さを感じる。
 ただ、規模はフェテス村よりも小さな町なので、外周をぐるりと回ることも難なくできた。

 入ってきた門の前に戻り、エリスは宿への帰路の道に足を進めると、宿屋の前に、先程までは無かった場所に人だかりが見えた。
 怒鳴り声、だろうか。エリスは少したじろいだ。本能でも分かっている。ああいった事には首を突っ込むものではないと。
 だが、その人だかりを越えなければ宿屋には戻れない。遠回りすれば反対の道から戻れるかもしれないが、生憎宿屋が見えた瞬間に舞い降りた疲労感には勝てず、人だかりを掻き分ける様に入って行った。

 ふとした好奇心に負け、エリス人だかりの中心に目を遣ると、そこには怒りに顔を染める中年の男と、その男を宥めようとする数人の村人が数人。そして、例の如くに周りには取り囲む民衆。

「お前だ! お前しかいないんだよ! ディラマルカの使いめ!」

 ディラマルカの使い、とは酷い物だ。
 エリスは思わず、眉根を潜めた。
 ディラマルカ、即ち闇の妖精の長の名であり、その使いとは、ノジェスティエの歴史を学ぶ上で死を運ぶ物、「死神」と言う訳だ。
 怒りにかられたと言えど、流石に言いすぎだろう。皆まで言うとは、一体どんな人物なのであろうかと思い、エリスは何人かをすり抜け中央に入っていく様に勢いよく進むと、取り囲んでいた輪から出てしまいそうになったが、人の層がそれを阻み、うまい具合に中央を見る事が出来た。
 そこには中年視界に黒髪の少女がすぐに入り、自分の目を疑った。

 ソア、だった。

 だが、あの漆黒の髪を忘れるわけなどない。
 男と揉めているのは確かにソアであるようで、エリスには気付いていない様子だった。
 ただ、見る限りでは怒って声を荒らげているのは男だけで、ソアはただ唇を薄く噛み、堪えてる風にも見え、エリスの胸が急に騒ついた。
 エリスはソアの元に駆け寄ろうと前にと割り込んで入って行こうとするが、人がそれを阻み上手く進めず、立ち往生する形となってしまう。
 すると、今度ははっきりとソアの声が聞こえる。

「違います。私はただクラーフには配達をしに来ているだけで…」

 強い口調で男に反論するソア。いつ男が手を出してしまうのか分からず、エリスも仕方なく喧嘩の仲裁に入ろうと考えていたが、それは乾いた何かを叩く音のせいで一度思考が止まってしまった。


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