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記憶の柱からクラーフまでは後少しの距離と、ソアの案内によって三人で話しているうちにクラーフの町は数時間するとすぐに見えた。
ソアは二人の一歩先を歩いていて、クラーフの町を目視できる所までくると、こちらに向き直り、照れ臭そうに笑いながら口を開く。
「じゃぁ二人共、本当にありがとうね!」
「いえ、お仕事ご苦労様です」
「じゃぁ気を付けろよな」
それぞれ言葉を交わすと、ソアは手を上げて、駆け足で走って行ってしまった。
「変な奴だったなあ…」
「僕らも大概そうなんでしょうけどね。お節介だと思います」
エリスの不服そうなぼやきにイリスは笑いながら茶々を入れ、ソアの姿が町に入ったのを確認するとまた歩き出した。
「宿でも取りましょうか」
入門手続きを済ませ、身を整えながらにイリスは言った。
ジュナまでの道のりはあと半日といった所だろうが、もうすでに日は落ちかけており、エリスは微笑みながら頷く。
町の人に宿の場所を訊くと、いくつか教えて貰った。流石旅人で生計を立てているだけはある。
エリス達はその中の、大通りに面した所にある小さな宿屋に足を向けた。
そこは少し古びた外装とは異なり、綺麗な宿屋だ。
旅を始めてからは旅人小屋に居ようと、それは野宿とはかわらない。油断は禁物だ。
そんな緊張する中で過ごす一夜と、安全な町での一夜は雲泥の差だ。
やっと心置きなく休められると思い、二人は心踊らせていた。
イリスが帳簿に名前を書くと部屋に通された。
部屋はシングルベットが二つ程あるだけの質素な部屋だったが、休むだけなのだから関係はない。
二人は荷物を壁にかけるとベットに腰を下ろす。
緊張しきっていた体に、柔らかなその感触がじんわりと染み込んでいき、体の筋を伸ばし、二人は同じタイミングでベットへと倒れこむ。
思わず笑ってしまった。
長旅の疲れか、このままの状態だと瞼はお構いなしに閉じていくのだろう、とぼんやりエリスが思っていると、隣のベットのスプリングが鳴る。
「寝ちゃいそうです…そうだ、夕飯まで時間ありますし、シャワー浴びてきたらどうです?」
「んー…先に入っていいよ」
シャワーも大変魅力的だが、エリスにら既にシャワーを浴びる気力もなく、気だるそうに返すと、イリスは苦笑して「では、お言葉に甘えてお先に入りますね」と言葉を残し、部屋を出て行った。
ぱたんと音を立ててドアが閉まる。
その音で、一気に一人きりになったのだと感じた。
エリスは瞼をゆっくりと閉じたが、初めての町に着いた高揚感からか、眠気はとうになくなってしまっていた。
ならば、イリスの言葉に甘えれば良かったと舌打ちを零したが、それは虚しく部屋に響くだけだ。
エリスは体を起こすと、部屋の窓からクラーフの町を見据える。
話し相手も居ない事だ。散歩がてら、町を散策でもしてこよう、と思った。
エリスはブーツのベルトを縛り直し、入室したばかりの部屋を出た。
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