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 黒髪の少女、ソアはイリスと握手を交わすと、今度はエリスへと向き直り、自ずから手を差しのべてきた。

「君は?」
「俺はエリス。お前、見掛けによらず強いんだな」

 エリスは戸惑いながらソアの手を握り、そう言うと彼女は不服そうに口を尖らせる。

「見掛けって…どういう意味、」
「あ? 褒め言葉だろ」

 エリスはソアが不機嫌になった事に気づいておらず、小首を傾げながらでそう返すと、ソアは噴き出す様に笑った。

「…はは、褒め言葉、ね。分かった、じゃあ素直に受け止める。ありがとう」

 その笑顔は、先ほどまでの少女の表情とは打って変わったもので、エリスは面を食らった。
 それと共に何だか照れ臭くなり、目を逸らそうとするが不意にソアの漆黒の瞳と視線が重なり、思わず見つめてしまった。全てを無に返すようなその色に吸い込まれる様だったのだ。

 生まれて始めて外の世界を見たエリスにとっては、何もかもが新鮮であったが、ソアのこの瞳だけは違う。
 言葉には出来ないが、胸をざわつかせたり、郷愁にかられ、懐かしいとさえ思うこの感情は、どうにも説明がつかなかった。

「あの…エリス? どうかした?」

 どうやら交わされた握手は解かれてなどいなかったようで、ソアは不思議そうな表情を浮かべながら、エリスの顔色を伺う。

「え! いや、別に…」
「ぼうっとしてたけど…あれ?」

 すると、エリスの顔をまじまじと見ていたソアは、しきりにイリスの顔と見合わせる様に交互に見ると首を傾げた。

「同じ…顔?」
「ああ、僕ら双子なんです」

 呟いた言葉に、イリスは答える。
 ソアはへえ、とどこかうわの空の様子で、物珍しそうに見つめてにっこりと笑う。その表情は年相応に幼い。

「瓜二つ、だね!」
「はは、よく言われます」

 ソアの警戒も薄れてきたのか、終始笑みを浮かべている。それに至極心が落ち着いたのだが、そんな事を口に出せる筈もなくエリスは心の隅にしまった。
 そして、そんな二人を見ていたエリスに、一つの疑問が湧き上がる。

「てか、お前こんなところで何やってたんだ?」
「何って…用事があるんけど…」

 少女はそう言って言葉を濁すが、エリスの顔を見ると何か合点でもついたのか、あ、と声を上げる。

「心配なら要らないよ。見たでしょ? 盗賊も魔物だって怖くないんだから!」
「…だとしても、ガキ放っておけるわけねーだろ」
「ガキって…!」

 エリスの言葉にソアが噛み付こうとした瞬間、エリスの後頭部に、鈍い痛みがはしった。


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