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少女はそれを受け取り太腿に戻しながら女を見遣ると、彼女もそれは不服そうな顔で少女を見て、屈辱に震える唇を開く。
「しょ、しょーがないわね! 今回は許してあげる!」
「…は?」
その言葉に、誰が言ったのか、はたまたそれは自分の心の声なのかも分からぬ音が聞こえた。
「あたしはレイメ」
「俺はルコット」
こちらには関係なしに、勝手に自己紹介を始めた盗賊達。男はルコット、女はレイメと名乗る。
盗賊達と誰が馴れ合うのであろうか。これも何かの作戦であるのだろうかと、エリスは掴んでいる剣の柄を、握り直した。
するとルコットは、胸の内ポケットに手を忍ばせ、黒い球体を取り出した。その顔は何処か満足気であり、エリスは顔をしかめた。
あんなもので何ができると言うのか、爆薬には些か小さすぎるそれに、エリスが躊躇っていると、レイメも至極満足気な顔をする。それは、相も変わらず高飛車な顔付きであった。
「そんじゃ…さよなら」
「…は?」
その言葉が終わると同時に、ルコットは小さな球体を勢いよく地面へと叩きつけた。
それは小さな爆発を起こして大量の黒い煙を吐き出す。エリスの視界を奪うが、それが爆発すると同時に服を引っ張られ、エリスは何時の間にかイリスの背の後ろにいた。
少し煙を吸ってしまってエリスは咳き込んだが、イリスが虚空に手を広げ小さく何かを呟くと風が吹き荒れ、煙が嘘のように消えて次第に息苦しくもなくなり視界も開けた。
「…やはりいなくなってますね」
煙を吸ってしまったのか、イリスも咳き込みながらそう言う。
目の前に居た筈のあの二人組の盗賊が消えており、そしの代わりに地面には白い紙が落ちてあった。
エリスかわ拾おうとすると先に少女が気付き拾い上げ、二つに折り畳まれた紙を広げてその文面を読み上げる。
「…懲りてないみたい。…次は覚悟しな。って、書いてあるし」
ほら、とその手紙を見せてきたが、何とも気に食わない内容であるのは間違いなかった。
それを聞いていただけのイリスも、溜め息をついて苦笑する。
「本当、困った盗賊達ですね…」
イリスは少女に目を遣ると、いつものような優しい笑顔を浮かべて手を差し出した。
「先程はどうも。守って下さってありがとうございます」
だが少女はその掌を訝しめな表情で見つめるだけで、ぽつりとつぶやく。
「わざと動かない様に見えたけど…」
「酷いですね、そんなわけないじゃないですか。僕はイリス。貴女は?」
「…私はソア」
再度柔和な笑顔で問いかけると、少女も観念したのかその手をとった。
「とりあえず、よろしく」
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