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「怪我は無いですか」とイリスは少女に優しく笑いかけると、唖然と事を見ていた少女は、尚も警戒を解かずに頷く。
「…大丈夫」
イリスはそれに苦笑を浮かべて両手を上げ、こちらに敵意が無いことを主張すると、少女は目を大きくあけて、そして小さく笑う。
イリスが挙げていたその手を差し伸べて、こちらにくるように促すと、警戒心が和らいだのか一つ、歩を進めてきた。
エリスも胸を撫で下ろし、イリスの所へと向かおうとすると、視界の端に盗賊の男が立ち上がるのが見えた。
ナイフを片手に、イリス目掛けて走っていく。
危ない、とエリスが喚起の声を上げる時には既に遅く、イリスもそれに気付いたものの出遅れた。
その刃が、イリスに容赦なく降り注ぐ。エリスの目の前は、一瞬の事だと言うのに、やけにスローモーションで進む。
「イリ…!」
だがその脅威は、金属の重なり合う音とともに消える。
「…っ卑怯者!」
「お嬢ちゃん…」
「…守られてばっかじゃ、ないんだから!」
少女はそう言って、受け止めた男のナイフを弾き飛ばす。
次は太腿に刺してあったダガーナイフを流れる様に取り、次の行動を移そうとしていた女に投げ付ける。
ダガーナイフは女の服を巻き込み地面に縫い付け、女は必死にそれを抜こうとするが、それは簡単には抜く事が出来ず、茫然とする表情の女に、少女は満足気に笑って手中の短剣を器用に回した。
「痛い目見るって忠告、私したんだからね」
幼い顔付きとは裏腹に、卓越したその技術に、エリスも思わず惚れ惚れとしてしまい、声を無くしていたが我に帰るとイリスへと目線を変える。
何時の間にか、イリスは剣を抜いており、その切先を盗賊の男の首元に突きつけている。エリスと対し、イリスは今の状況にさほど驚いていないようで、男に尋ねる。
「さて、どうするおつもりなんでしょうか。勝ち目は無い様に思うんですが」
口元は綺麗な弧を描いて微笑するイリスだが、その言葉に乗せられた殺気が肌を撫で、盗賊達は息を呑むと二人は目を合わせ、こくり、と息を飲んだ。
すると、大きな舌打ちが聞こえ盗賊達は息ぴったりに勢いよく立ち上がる。
何事かとエリスは驚きつつも剣を引き抜き、二人を睨みつけると、女は腕を組んで鼻をならして、服に刺さっていたダガーナイフを少女へと投げ渡した。
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