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「ソア」

 そうあたしの名前を呼ぶ人がいる。
 とても懐かしくて、とても落ち着く声。必死にあたしを追ってきて、私はそれがとても辛くて嬉しくて。
 そして最後に優しく抱きしめられる、そして彼は一言必ず同じ事を言う。

「さようなら、」

 凄く悲しい声、顔で、それであたしのおでこにキスを落とすの。



 また、夢を見た。

 その夢ばかり最近見るのだ。
 彼、夢の人が男だと言うのはなんだか分かっていた。彼の顔が見えていると夢の中でら分かっているのに、夢から醒めると全く顔も覚えていない。
 声も、今では思い出せない。彼が誰なのか分からない。以前面識があった人なのだろうか。
 目を瞑り思い出そうとするが、何時もと同じように思い出せずに、欠伸が出た。

「…よく寝た」

 両手を伸ばしながら大きな欠伸をすると、掛けてあった厚めのシーツが落ち、少女を見せる。
 腰まである黒髪が綺麗に伸びており、上半身だけ見るとぴったりとした黒のインナーのように見える作りのワンピースを着ていた。

 少女は脳に酸素を送る作業をすると、床の布団から飛び出すように抜け、空気の入れ替えとして窓を開けて大きく深呼吸をする。
 そして目に映るのは青く茂る緑、とその緑に囲まれているこの家の煙突からの煙。鼻をくすぐる香りが、お腹の虫を暴れさせる。

 少女は勢いよく自室の二階から飛び出し、階段を駆け降りて一階のキッチンに向かった。



「アニマさん!」
「あらソア。おはよう」
「おはようございます! 今日は配達日でしたよね?」

 アニマと呼ばれた年配の女性は、綺麗な胸まである銀髪を緩く結んでおり、瞳は朝日に輝く黄色の瞳だった。
 アニマは優しく微笑みながら尋ねる。

「今日も頼めるかしら?」
「全然大丈夫!」

 ソアと呼ばれた少女元気良く返すと、アニマの所へ走り寄っていく。
 キッチンの机の上に配達用の籠が置いてあり、ソアは中を確認するとその中には既に焼き立てのパンがいくつも入っていた。
 ソアは目を輝かせながらアニマを見ると、とびきりの笑顔を浮かべる。

「今日もすっごく美味しそう! 町の皆も絶対大喜びですね!」
「あら、嬉しいわ。そうだ、今日はクラーフの町までなのだけど大丈夫?」

 アニマが心配気な顔をしながらソアに問い掛けると、彼女は元気良く頷いた。

「任せて下さいよ! 剣の腕ならそんじょそこらの人なんかより強いですもんっ! アニマさんのスパルタでね!」

 したり顔でそう言うと、アニマは声をあげて笑いながら二人分の朝食を机の上に用意をする。


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