12
 暗く、先が見えない程の暗闇の中で、不安定な作りの螺旋階段を降りる女性がいた。
 その女性は長い黒髪を揺らし、ただ広い地下に彼女の階段を降りる音だけが響く。
 左手には激しく燃えるランタンを持っていて、丈の長い漆黒のコートを少し引きずりながら、降りていた。
 階段を降りきると広いエントランスに出て、奥の扉に目を向けた彼女は一度目を反らし、そして息をつくと軽くノックをする。

「なんだよ、来たのか?」
「来ちゃ悪いの? 再契約の日よ」

 そう彼女が抑揚の無い声で言えば、扉の向こうにいる男が扉の向こう側に居るというのに聞こえる程の大きなため息をつき、悪態をついた。流石にそれは聞こえなかったようだが。

 鍵の空いた音が聞こえ、彼女は男に了承を得るとドアを開けて歩を進める。
 そこは階段の作りとは裏腹に、明るく、無機質な白い小部屋であった。
 彼女は光に慣れずに目を何度か瞬きし、ソファに腰掛けている人物を見た。
 着ている服はノジェスティエでは珍しいデザインと素材で、簡易に見える丈の長いコート。部屋と同じ白を基調としたもので、縁は瞳の色と同じ黄色の縁取りがなされていた。
 長身の青年で、きらきらと輝く銀色の髪は腰まであり、その瞳はレモンイエローの色をしており、この部屋に色を差す。
 切れ長の瞳に薄い唇。顔立ちはとても端正で美しい。

 青年は入ってきた女性の事をちらりと見ると、左手を上げる。
 すると扉がゆっくりと閉じてき、鍵の掛かった音が無機質な部屋に響いた。
 青年が向かいにあるソファに目を遣ると、女性はそのソファに腰掛け、持っていたランタンの火を消すと足元に置いた。

「再契約って…もうそんなか?」

 青年が口を開き、女性に問うと、あの二人が旅立ったの、と面倒くさそうに答えた。

「…へぇ。レインの力から屑になりさがった奴らだろう?」

 青年は此処には居ない二人を見下すように鼻で笑うと、口元を押さえる。
 女性はそうね、と思い出す様に目線を泳がせ、

「…レインって人を知らないけど、貴方の話を聞けば力は分散されてると思うわ。憶測だけど」

 と答える。

「…まあ、記憶が戻れば俺の事一番に殺しにくると思うけどな」

 彼女の言葉で力が抜けた様に青年はソファに寄りかかると、自分の髪で遊びながら自嘲気味にそう笑った。

「今では、神と崇められた者が、本当はこんなのだなんて…あまりに滑稽ね」
「だが力はそのままだ。この世界は俺の世界…俺が天秤にある」
「そうね…。だってもう歯車は回り始めたもの」

 女性はそう言うと青年に綺麗に笑いかける。


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