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「…この剣には理があり、その理の意味を理解した時、刻まれた紋章の力が発動するカラクリの妖剣だ」

 クワースリはそう言い、エリスを見据えると、エリスは頷き一歩前に出る。
 クワースリは金の双剣をエリスに差し出し、口を開いた。

「無垢なる人、光を目指し求道者として光となれ」
「…はい」

 クワースリがエリスに理を伝え手渡すと、エリスはその理を忘れない様に小さく呟き、双剣を胸に抱き締める。

 クワースリはイリスに向き直る。イリスには風の紋章が入った剣を差し出した。

「聡明なる人、風に耳を貸し正しき道へと導く光となれ」
「…はい」

 イリスがクワースリから宝剣を受け取ると、剣が淡い青色に輝いた。
 それはとても美しく、そのまま輝きを保っている。

「これって…」
「すげぇ…綺麗だ…」

 目を疑う様な出来事が起こり、イリスは目を大きく見開きクワースリに尋ねる様に見ると、流石にクワースリも驚いたのか、イリスと同じ様な顔をしていた。

「既に理を理解してるって事だろうな…。イリスは元々妖精の使い魔の素養があったわけだし、同調しやすかったのかもしれない」

 信じられない、とクワースリは呟き、イリスを盗み見る様に見る。
 イリスは既にその事を受け入れたのか、自身の物としての真剣を持った喜びに驚きも無くなったのか、至極嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 その表情を見れば、クワースリはただ暖かい気持ちが先に走り、ほくそ笑んだ。

「…うん、お前等にぴったりの剣だな!」
「かっけー! 俺だけの真剣だ…! ありがとうございます、クワースリさん!」
「本当にありがとうございます!」

 二人は自身の剣を抱き締めながらクワースリに頭を下げ、興奮気味に話すものだから、思わずシャーリー達は笑ってしまった。
 笑い声によって自分達の興奮具合に気づいたのか、頬を少し染めて二人は口をつぐんだ。

「よーし、落ち着いた二人にはこれを贈呈。ま、二人は大丈夫だと思うけど、一応。旅には必須だよね!」

 そう言って、アーガテイは正方形に畳まれた紙を広げて見せる。
 
 そこには、ノジェスティエの地形が広がっていた。

「お、地図か! ありがとう、アーガテイ」

 エリスはさも何も無かったかの様に、弾むような声でそう言うと地図を受け取った。
 するとクワースリが正門へと一歩前に踏み出すと、その先の道を見つめながら言う。

「さ、村を出たら道沿いに西に歩け。時間はないが、今からならだいたい第六の鐘が鳴る前には近くにある旅人小屋にも着けるだろう」

 振り返り、笑いかけるとイリスは安堵の息を漏らす。

「良かった、旅を始めて早々野宿かなと思いました」
「大丈夫。ジュナまでなら旅人小屋を伝って行けるさ。それに、記憶の柱の近くにクラーフって言う小さな村があるからそこで体を休めるといい」
「…分かりました、ここから西…。確か記憶の柱からジュナまでは北西でしたよね」
「ああ、抜かりなしだな」

 クワースリが煽てる様にそう言うと、イリスは頬を染め、唇を尖らせそっぽを向くと、クワースリはまた優しい笑顔を浮かべ小首を傾げながら尋ねる。
 
「じゃ、もう行けるかい?」
「全然大丈夫っす! な、イリス」
「はい。アーガテイにクワースリさん、それにシャーリーも! 本当にありがとうございます」
「…必ず無事に帰ってこい。イリス、エリス」
「ちょっとしたら王都に居ると思うからまた会いに来てね!」

 口々に声を掛け合い、アーガテイとクワースリは笑いながらイリスとエリスの肩を軽く叩き、背中を押す。
 今まで送り出してきたイリスはエリスには、それは歯痒く、そしてやはり淋しさが訪れる。
 弱気な言葉が出そうになるのを抑え、エリスは口を閉じ、イリスを見ると、イリスは着いてくるように目線を向けた。
 エリスも頷き歩きだしたが、今も下を向くシャーリの前で立ち止まり、頭をこずいた。

「シャーリ、また帰ってくっから泣くんじゃねーぞ?」
「わ、わかってるわよ…」

 ひらひらとゆれる彼女の袖は涙で濡れていたが、シャーリは隠すように呟いた。
 それを見たエリス達は優しく笑いかけ、イリスはまた会いましょうね、とシャーリに笑いかける。

 そして目を閉じて深呼吸すると、二人は三人に背を向け外の世界へと歩き出した。

「それじゃぁ…」
「いってきます!」

 二人の声が希望に満ち溢れる空に響き渡った。

 それはある年の、メマルシーニエリオス18の日。


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