10

「お前等は知らなくて当たり前だよな。誰もその事には触れなかった…いや、チェレスシータさん本人立っての希望で、お前等には言わないで欲しいと言われていたらしい」
「そうだったんですか…でも何故?」
「理由は分からない。だが、もうイリス達も大人だしな…チェレスシータさんはココルタールの科学者だったそうだ」

 その言葉に、エリス達は思わず口をつぐんだ。
 今も愛してやまない母の、本の一部分だが、少し知り得たからかもしれない。
 二人には、少ない母の情報さえも糧になる。今まで生きてきたのは、母と暮らした記憶があったからこそだったのだ。
 クワースリはそんな二人を見ると、言葉を紡ぐ。

「うちの父さん…村長がそれに感銘し、フェテスの宝剣をチェレスシータさんに、と言った。まあその時皆の治療費なんて支払えるわけもなかったから、その報酬にだった。だがチェレスシータさんはそれを断った。お金は必要ない、それにその宝剣とやらはきっとこれから先、必要な時がくるかもしれないのだから、持っていて欲しいと」

 そこまで言い終えると、クワースリは深い息を吐いた。
 そして顔を上げる。いつもの優しい笑顔で、だがどこか悲しそうな表情
のクワースリが映った。

「父さんはもう居ない。ブログント家を継いだのは俺だ。俺はそれが今だと思ってる。結局…チェレスシータさんに何もしてやれなかったんだ、これぐらいさせてくれ」

 クワースリはそう言うと、エリス達に宝剣を差し出した。
 エリスはそれを受け取ろうとするが、息を飲み、堪える様に拳を握り腕を下ろした。
 周りのシャーリー達も目を瞑り視線を落としたが、ただ一人イリスだけはエリスの拳に手を乗せ微笑み、エリスに話しかける。

「ココルタールの研究者…とても知的だって事です。それに、暖かく、優しい。素敵な人だ」
「…うん。母さん、昔から御人好しだったんだな…」
「はい…。だから大丈夫です、エリスもういいんですよ」
「ああ…」
「僕たちが小さな頃出来なかったことを、今してあげる為にも、僕はこの剣が必要だと思います」

 今にも泣きそうな顔のエリスに、イリスはそう諭す。
 声も震えてエリスだったが、イリスの手の暖かさがエリスに伝わったのか、強く握りしめていた拳が解かれ、エリスは長い息を吐きクワースリに向き直る。
 クワースリを見つめるエリスの瞳は、強い思いが感じ取れる目つきをしていた。
 イリスもクワースリを見つめていた。揺るぎない思いがイリスにある事が分かった。
 クワースリは問う。

「これはお前等に必要か?」
「はい」
「今、必要なんです」

 その言葉に、クワースリは優しく微笑んだ。
 二人の表情は、もうクワースリが知る子どもの二人ではなかった。


/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -