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 クワースリはシャーリーの頭を撫で、そして彼女を胸から放すとエリス達に微笑えむ。

「さあさあ、お二人さん。俺からはこれを餞別に」

 クワースリは地面に置いていた白い麻袋を取ると、中から金の柄に光の紋章が入った双剣と、風の紋章が入り、切先が蒼く、柄に近づくに連れて薄緑に変わる美しい剣を取り出した。
 華美ではないものの、とても綺麗な装飾をしたその剣は、どちらも引けを取らない程美しく、その場に居合わせた皆が思わず息を飲んだ。
 クワースリはその剣を一振りし、太陽に掲げ細く目をこらし言う。

「この剣はな、フェテス村に代々伝わる宝剣なんだよ」

 クワースリは二人に向き直ると綺麗な笑みを作りそれを差し出す。
 一瞬何をしているのか分からず、差し出された剣を見ると、やっとその意味を理解し、エリス達は目を丸くしたまま首を何度も横に振った。
 村の宝剣だと言われた物を、抵抗なくすぐに受け取れるわけなどない。

「そんなもの貰えませんよ!」
「そうですよ! 無理ですって! ってゆうか村の宝剣貰うのおかしいですよ!」

 クワースリはその反応を予想していたのか苦笑し、口を開いた。

「まあそう言うな。これは元はイリス達のお母様、チェレスシータさんにフェテス村から送られたものなんだよ」

 母の名前が出たことにより、エリス達の顔つきが一瞬にして変わった。
 それは、驚きもあるだろうが、希望の光を見るようでもあった。

「母さん、の?」

 やっと言葉を絞り出し、エリスはクワースリの言葉を促す。
 クワースリは目線を落とし、目を閉じると、思い出すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

「…チェレスシータさんは、まだお前等がお腹に居た時にフェテス村にやってきた。丁度その年は、フェテス村では疫病が流行り、最大の危機に瀕していた。そんな時、チェレスシータさんがその疫病に効く薬を調合して皆に処方してくれた」
「そんなこと、母さんが…?」

 イリスは信じられずに上ずった声で尋ねる。
 イリス達が知る限りでは、母・チェレスシータにはその様な認識はなかった。

 極平凡で、そして誰よりも優しい母親の記憶だけであった。

 とは言っても、チェレスシータと一緒に居れたのは二人が八歳になる前であったのだから、母との思い出も、チェレスシータがどういう人であったのかは詳しくは知り得ない。
 クワースリが言っていた様に、チェレスシータはこのノジェスティエ有数の科学都市・ココルタールから珍しくも移り住んできたのだ。チェレスシータの過去を知る人はこの村にはいなくて当たり前であった。


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