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 既に纏めてあった荷物を手に取ると、二人はフェテス村の正門を目指した。

 フェテス村は高い壁に覆われているが、外に出る場所はこの正門しかなく、離村式の関係者などは皆そこに集まっていた。
 そこには廃れた検問所がぽつりとあるだけだ。
 辺鄙な場所にある故、村を出る人よりも、訪れる人の方が遥かに少ないのだから、検問所に人が居つく必要もない。
 正門の近くまで行けば、クワースリ達の姿が見え、二人は足を早めた。

「あ、来たよ!」

 アーガテイが一早く気付いたようで、クワースリとシャーリーにそう声をかけると、二人に手を振った。
 もう時刻は夕刻になっており、少し肌寒くなったのか、シャーリとアーガテイは厚手のコートを羽織っていた。

「ごめん!」
「すみません! 待ってしまいましたか?」

 イリスの言葉にアーガテイはそんなことないよ、と首を横に振り、隣のシャーリーのコートの裾を小さく摘まむと、シャーリーは息を飲んで一歩前に出ると、震える声で言う。

「それじゃぁ二人共…ジュナまでの道中、気をつけてね?」

 シャーリーは胸の前で両手を固く握りしめ、それは何か言い出したい言葉を必死に堪えてるように見えた。
 それを察してか、エリスはシャーリーに笑いかけながら「大丈夫だよ」と答えれば彼女は「エリスが一番心配なの」と眉を下げて頬を膨らませる。
 そして何か思い出したのか、コートの中に手を入れると小さな掌から翡翠の玉に糸を通し、その先に薄緑の羽根を付けた物を二つ差し出した。

「これって…」
「フェブフィーエの土地にいるクラマスの羽根の御守り。またこの村に帰ってこれるようにって…」

 二人にそっと手渡すと、今にも泣きそうな表情で、涙を堪えていた。

「ありがとう、シャーリー。また戻ってくんだから…そんな最後みたいな顔しないでくれよ」
「そうですよシャーリ。帰ってくるときはちゃんと色々お土産持ってきますから」

 シャーリーの泣き顔には殊に弱いエリス達で、必死に泣かせまいと言葉を紡ぐが、シャーリーの淋しさは紛れるはずもく、小さな雫が一つ落ちる。

「…うん、待ってる。皆が居なくなって寂しいけど、私皆が帰れるようにここに居るわ」

 涙を拭き、とても柔らかい笑顔でそう言った。
 そんなシャーリーが愛しくて堪らなくなったクワースリは後ろから優しく抱きしめると背中を二度あやす様に叩いた。
 いつも誰かが泣くと、クワースリはこうして泣き止ませていたのを、エリスは思い出す。


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