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「…ス…さ…」

 ぼやぼやと、それは途切れ途切れに聞こえる。だがその途切れた音でも、それが誰の声なのかは分かった。

「…ださい…」

 何を言いたいのかが全く頭には入らず、「何だよ」と尋ねてみた。いや、心の中だけでかもしれない。
 そうと言うのも、あまりの眠たさと気だるさに、口は動こうとしなかったからだ。
 自分の体に合わせた温もりの中はとても心地が良く、誰しも「もう少しだけ」と思うだろう。
 だからこそ、その声が聞こえないように、頭を隠す様にシーツをまくりあげ、相手に見えないシーツの中で耳を塞ぎ、あたかも意識がなかったかの如く無視をする体勢に入る。

「エリス!」
「はいいぃいい!」

 だが、あまりの大きな声に驚き飛び上がった少年は、一気に覚醒する。
 やはりあれは、小さな抵抗に過ぎないらしい。

「…やっぱりイリスか…。何…」

 銀色の髪をした少年はエリスと呼ばれ、枕に顔を埋めながら安堵の息を漏らす。あわよくばまた眠りの世界に飛び込むためだ。
 エリスは横目でベッドの脇に立つ、これまた銀色の髪をしたイリスと言う少年を見る。

「…話きいてました? だから、起きろといってるんですよ」

 そうにっこりと笑いながら言う彼は、エリスととてもよく似ている。いや、似ているのではなく同じだ。顔も、体格も髪や目の色も。
 違うところと言えば、性格や声色、イリスの方が少しだけ優しげな表情を浮かべているだけだろうと思うほど、瓜二つな双子だった。
 エリスににっこりと微笑むイリスは兄、未だベッドから起き上がらないエリスがその弟である。

 流石兄であるイリスは、エリスの思惑を察知したのか体に巻き付けてあるシーツを剥がす。

 まさに悪魔である、とエリスは心の中で毒づく。

 シーツを取られてしまったエリスは、若干の抵抗をしようと思っていた行き場のない手を寝ぼけ眼に置いて朝の日差しを遮断し、何処からでるのか分からないうめき声を上げ、そして大きな溜め息を一つ吐くと、起きたばかりで重い体に鞭を打ち起き上がらせた。

「分かった…分かった起きますう…」

 そんな腑抜けた声を出しながら欠伸をして体を伸ばすと、自身の体より一回り以上大きい服がずるりと崩れて肩が出た。
 北半島に位置するフェテス村では、どんな季節でも朝方は寒く、薄着一枚でいるエリスは、なんとも寒々しい格好だった。



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