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「実はここに二つの許可証があるんだ」

 クワースリのその言葉と共に、アーガテイは胸のポッケから二枚の金属の板を取り出し机の上に置いた。
 それはイリス達が小さな頃から欲していたといっても過言ではない代物だった。

「許可証…!」

 思わず許可証へと飛び付き手に取ってみると、確かな重みがある。
 それは確かに本物だった。

「俺とアーガテイの分の許可証だ。それをお前等の分として持っていけ」
「え?」

 クワースリの言葉に、思わずどちらとも言えない声がでた。
 クワースリは息をつき、また話出す。

「俺達の不注意で起きた事だ。せめてもの償いだよ」


 その言葉に、隣に居たアーガテイは肩を竦め、イリスとエリスに笑いかける。
 二人の表情に、笑顔が戻っていたのだ。

「その報告書には俺達が許可証を無くしたからフェテス村に新しい許可証を持って来てくれって事が書いてある」
「いいんですか? こんなことまでしてくださって」
「再発行なんて待ってたら年が一回りするぞ? これが俺たちが出した最善策なんだ」

 クワースリはそう言うと、胸を張ってそういった。
 エリスは満面の笑みを浮かべて隣のイリスを見ると、イリスも輝かしい笑顔でこちらを見ていた。

「やったな! イリス!」
「はい! 良かったです」


 そんな二人の間にクワースリは指を立てた手を割り込ませ「ただ!」と真剣な声色で見つめる。

「お前らにさっきも話したが、決して忘れるな。そういった事が事実あったってこと、それに、お前らの事を狙う奴は卑怯だって事。この村を出て行けば何かあるかもしれないって事を」

 神妙な面持ちでクワースリはそう言う。
 その言葉は、裏を返せば行くなとも聞こえた。隣に居るシャーリーの表情も暗い。
 クワースリやシャーリー、二人が心配しているのも分かる。
 今話を聞いた限り、そして村を出るということは、命の保証はない。そして自分達でもこの状況が危険か安全かなど火を見るよりも明らかだ。

「…でも、俺らには行かなきゃならないとこがあります」
「端から見れば小さな願いかもしれませんが、僕たちは母さんの最後の言葉を叶えたいんです」

 エリスに続いてイリスがそう付け加えると、クワースリはまた大きく溜息をつき小さく呟いた。

「…やっぱり、駄目だよな」
「え?」
「…いいか? すぐに異変やらなんかあったら直ぐに逃げろよ? で、俺に連絡いれろ! 飛んでくから!」

 今まで浮かない顔つきだったクワースリだったが、声を荒らげてソファから勢いよく立ち上がると鼻を鳴らし話を始める。

「子どもじゃないんですから、大丈夫です。心配しすぎなんですよ、クワースリさんは」
「いいや! 俺にとってはまだまだ可愛い可愛い弟だね! いいか、約束だからな!」
「勝手に約束しないで下さいよ! 第一、こんな広い世界どうやって連絡するんすか!」

 エリスとイリスの声に聞く耳なども持たず、クワースリはまた力説を始める。
 そんなやり取りを見ていたアーガテイとシャーリーは、顔を見合わせ笑い合うと、アーガテイがその中に割り込んで行く。

「はい、はい。じゃぁ決定だねー。二人とも、ちょっと面倒だけどよろしく頼める?」

 アーガテイはクワースリを押さえつけると、エリスとイリスに笑いかけながら問うた。


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