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「い、痛い…」
クワースリはその場であぐらを欠くと、殴打された頭を抑え、唇を尖らせながらぶつぶつと言っていた。
苦笑を浮かべながら心配の声を上げたアーガテイは、クワースリの前に座り頭を撫でてやっていた。
そんな所に、控え目に開いたドアから、シャーリーが紅茶も持って明るい声色で入ってきた。
「はい、皆御待たせ。お茶を飲みながらお話しましょ?」
偽りのない優しさを持った人物はそう言って優しく笑うと、今まで床に座っていたクワースリが太陽のような笑顔を浮かばせ、いきなり立ち上がった。
だが近くにいたイリスにすぐに足をかけられ、クワースリは盛大に倒れてしまった。
「お、お兄ちゃん! ちょっと、大丈夫?」
びっくりした声をあげながら、持っていたお盆をエリスに渡すと、クワースリに手をさしのべる。
上手い事にシャーリーにはイリスが足をかけたのを見えていなかったようだ。
いや、見えないようにしたのがイリスなのかもしれない。
そんなイリスの事、もはや気付いていないのかもしれないが、クワースリはシャーリーの名前を絞り出す様に、お構い無しに強く抱き締める。
これを見越しての足掛けだったようで、隣にいたイリスは呆れたように溜息をついていた。
確かにあのままであったら、クワースリは紅茶すらお構い無しに抱きしめていただろう。
その思わぬ強い力に小さく悲鳴をあげたシャーリーは、胸の中で何度もクワースリの胸を叩いていた。
クワースリはそれで漸く気づいたのか、胸の中のシャーリーをすぐに拘束から解く。
やっと胸から離れ息をすることが出来たのか、真赤になった顔のシャーリーだったが、その顔はすぐにふて腐れたような顔になり、クワースリの胸をまた何度も叩く。
ただ、当の本人はそれすらも可愛いのか、クワースリは至極嬉しそうに笑っていた。
「会えて嬉しいぞ、シャーリー!」
「会えてって…昨日会ったでしょ!」
「でも今日はまだおはようのぎゅーはしてないじゃないか」
「お兄ちゃんが起きるの遅かったんじゃない!」
「そうか? そうかもしれないけど…それはそうと遅かったじゃないか! お茶を煎れてくれたのかい?」
「…そうよ。もう、お兄ちゃんったらあたしのこと絞め殺す気?」
全く悪びれることもないクワースリに呆れたのか、シャーリーは目を細くしてクワースリを見れば、彼はただ優しい笑顔を浮かべ「シャーリーは偉いね」と、彼女の頭を撫でる。
見ての通り、クワースリは重度のシャーリー好きである。
「おーい! 久しぶりに幼馴染みがこうやって揃ったんだから、二人の世界作らないでよう」
冗談を交えながらアーガテイが割って入ると、手を差し伸べる。
その手をシャーリーは取って立ち上がり、ワンピースの誇りを振り払い、皆の顔を見ると口を開く。
「ごめんね、おまたせっ。さあ、皆席に座りましょう」
ゆっくりと、懐かしい匂いがした。
綻ぶ頬が憎らしい。
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