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 アーガテイは歩みを止め、ドアを三回ノックする。
 「どうぞ」と優し気な男の声がし、その声が聞こえたと同時にアーガテイはドアノブに手をかけようとしたが、それよりも早くイリスがドアノブに手をかけ、乱雑にドアを開ければ、銀の髪がゆらりと見えた。

「お久しぶりです。クワースリさん」

 にっこりと笑うイリス。
 はたからみれば、素敵な再会だと思うだろうが、エリスはこれは機嫌が悪いな、と直感的に分かった。
 そんなイリスの些細な行動に気付かないクワースリは、人の良さそうな笑みを満面に浮かべて、まるでご主人様を待ってた犬のごとく目を光らせ、小走りに走ってきた。

「イリスじゃないかー! 元気だったか? 俺の可愛い子ちゃん」

 クワースリは、勢いよくイリスへと飛込むように抱きつくと、腕を腰に回す。
 それに不快感を感じたのか、イリスは一度眉間に皺をよせるが、またあの笑顔に戻ると口を開いた。

「ええ。先程までは非常に元気でしたよ? クワースリさんが帰ってきた、とゆう悲報を聞くまでは、ですけど」
「悲報なんて酷いなあ? 朗報の間違いだろ?」

 声を上げて笑うクワースリとは違い、微笑は浮かべているイリスであったが、決して笑ってなどいなかった。
 そんなクワースリを見て、イリスは口を開く。

「これはびっくりですね…クワースリさんが帰ってきて良い事なんてありましたか? これを悲報と言わずに、朗報と言えるあなたの楽観的な考えは、僕にも欲しいものですよ本当に」

 誰でも分かるであろう嫌味を、それとなく笑顔で言うと、クワースリは何も言えずに言葉を詰まらせた。
 エリスにはよく分かる。イリスへの言葉の反撃は皆無に近い。

 クワースリはちらりと目線をアーガテイとエリスに向けると、救いをエリスへと求めたのか、するりとイリスから腕を離すと、エリスに抱きついた。

「エリスー! イリスがいつになく酷いぞ、お前の兄貴だろー」
「な、何やってるんですか! クワースリさん、離して下さいよ!」

 抱きつかれ、バランスを崩して倒れたエリスに構わず、クワースリは泣き付いてきた。
 それにどう対処していいかわからないエリスは、苦笑を交えてイリスを見遣ると、それは完璧なまでに怖い笑みを浮かべていた。

「…クワースリさん? 僕の大事な弟が困ってるんです。やめてください」

 鈍い音がしたと思ったら、そこには花瓶を持ったイリスが居て、重くなったなと思えば、クワースリが力なく倒れていた。

「さ、その変態から離れましょうね、エリス」
「お、おう…」

 イリスに手を取られ、力強く引かれて立ち上がり、大丈夫かとクワースリを横目で見れば、頭を抑えながらゆるゆるとクワースリは立ち上がった。



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