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ドアを開けると、暖かい風が優しく体を包み、外との温度差に体がついていけないのか、うっすらと鳥肌がたつのが分かる。
この家の主であるシャーリーは中に入るよう促すと、壁に掛けてあったショールをとり、薄着のアーガテイの肩にかけた。
シャーリーは皆が入るのを確認すると扉を締め、微笑みながら口を開く。
「先にお兄ちゃんの部屋に行ってて? お茶の用意をしてくるから」
「え? いいですよ、そんな。気にしなくて結構ですから」
「駄目、二人ともお客さまなんだから。さ、アーガテイは二人をお兄ちゃんの所へ連れてって」
「はーい!」
アーガテイは勢いよく手をあげると、エリスとイリスの腕を取り、スキップするかのように歩きだす。
シャーリーの名前を小さく呼ぶイリスだったが、足早にキッチンの方に行ってしまったので口をとじ、アーガテイと歩幅を合わせた。
「クワースリさん。元気ですか?」
唐突にイリスがアーガテイにそう聞いた。
アーガテイはその質問にイリスを見ると思いきや、何故かその答えにエリスを見た。
何事かとエリスが目を丸くして無言で訴えると、アーガテイは苦笑しながら答える。
「クワースリね、元気っちゃぁ元気かな? でも、二人に会えないからって結構王国で駄々こねてたな」
「…いくつだよ」
思わず口に出し苦笑すると、アーガテイは小さく笑った。
顔や体つきは、まだ小さな子供だが、周りのオーラとは、自分達よりも何倍にも大人に見え始めたのはいつ頃だっただろうかとエリスは思う。
そんなアーガテイは、軍ではクワースリとバディを組んでいることもあり、クワースリを一番よく知る存在と言っても過言でない。
ただ、時々不自然に思うのは、二人の関係が、軍での主従関係やバディと言うよりも更に深いものだと言う事。
少なくともシャーリーは、この事には気付いているだろうな、と心の中で小さく思う。
いや、誰しもが気付いている。イリスもその内の一人であるだろうと確信している。
気づかれぬように視線を向けてみるが、そんな偶然のように目線が合うわけもなく、ただ、イリスはアーガテイに穏やかな微笑みを向けて話を聞いていた。
「クワースリは、二人の事大好きだからね! しょうがないんだってば!」
「それは嬉しい限りです」
アーガテイの言葉に、優しく笑いながらイリスが言うと「ほんとに?」とアーガテイは探りを入れるかのように、目を眇めてとイリスを見やると、困ったように肩をすくめてみせた。
「そんな、僕も、もちろんエリスだって、クワースリさんの事好きですもんね?」
アーガテイを挟んで隣にいるイリスは、いきなり話をエリスへと向けてきた。
「え? そりゃぁ…」
「エリス話聞いてなかったでしょー」
「き、聞いてた。もちろん俺もイリスとおんなじ!」
「逃げましたねぇ…」
「イリス! お前なあ!」
談笑しながら歩いていると、クワースリの部屋の前に直ぐに着いた。
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