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「ブログントの任務に光の双子の監視を入れたのですか?」

 そのクレデルタの問に、ランフェスは緩く首を横に振った。

「アイツは俺の言う事など、聞かないさ。なんたって、毛を逆立てた子猫だからな」

 そう良いながら苦笑するランフェスに、クレデルタも苦笑を浮かべたが、そっと言葉にする。

「ですが、ランフェス様の駒になるのはもうまもなくです。御安心を」
「ああ、そう願う」

 厭らしく口元を釣り上げ、顎に手を置いた。
 その一挙一動すら美しいのだから、なんとも皮肉な話である。

「アイツには大切なモノを見せに行かせてやった。失うが怖くなる。それがヒトの弱さだ」

 ぽつりと誰に言うでもないランフェスのその言葉に、クレデルタは声をうばわれたが、息を飲み、声を取り戻すと、クレデルタは凛とした目でランフェスを見つめ、口を開いた。

「…光の双子についてですが、既に手配はしました。ブログントは必ず旅券を双子に渡します」
「ああ、そうだろうな」
「それと、蘇生士の件ですが、そこには俺…私がこれから向かいます。光の双子と接点を持たれては厄介ですから」

 クレデルタがそう伝え終わると、ランフェスは肩を竦め「随分徹底的だ」と笑う。
 その言葉にクレデルタは、小首を傾げる。

「ランフェス様もそうでしょう。妖精の使い魔〈メサージュドゥラフェ〉の娘の所にレデックを送った」

 クレデルタがそう言うと、ランフェスはお手上げだと言わんばかりに両手を上げ「知っていたのか」と口にする。
 そんなランフェスを横目に見ると、クレデルタは深い溜息をつく。

「レデックは手加減はしませんよ。町ごと消しかねない…」
「そちらの方が好都合ではないか。私が手を下すことをしなくてもいい」

 そうランフェスは言うと、口元だけ綺麗な弧を描いた。
 それは美しく、また恐怖心を煽る。

「…そうですね。この偽りの世界の根底とも言える魂の鎖〈ソウルズチェーン〉もあと僅かです」
「後は光の魂の鎖だな…」

 ソファに深く腰掛け、手置きに肘を乗せて頬杖をつく。

 それは、昔から考え事をする時の癖だ。
 クレデルタはゆっくりとランフェスに近づき、話し始める。

「そこにはルベウスを行かせます。老いても元軍人。何より、ミズチラン家の血を引くものですから」
「全総動員だな」

 至極楽しそうにランフェスは笑う。
 それはまるで無邪気に遊ぶ、子供の様な声色だ。

「だが、クレデルタ本人が行くとは思わなかったよ」

 少し溜め息を吐き、残念そうにクレデルタに目を向けるランフェスに、クレデルタは驚きを隠せなかったが、またすぐにいつもの表情に戻ると、落ち着いた声色で話し始める。

「その間の護衛なのですが…」
「クレデルタ以外は無用だ。その時は私一人でいい」
「ですが…」

 食い下がるクレデルタの言葉をランフェスはひらりと手で遮る。

「分かっている。周りが騒ぐであろうから、形としてはつける気ではいるがな」
「…申し訳ありません、私の独断で決めてしまって」

 そうクレデルタが言うと、ゆっくりとランフェスはクレデルタへ顔を向ける。
 クレデルタは何事かと口にしようとすると、ランフェスは弱く首を振った。

「構わん。ただ寂しいな」

 そのランフェスの言葉に、クレデルタは思わず言葉を無くした。
 それでもランフェスに向けた目線だけは外されることはなく、クレデルタが息を飲むとランフェスは小さく笑う。
 
「そう想って頂けて光栄です。その…」

 上手く言葉が出ずに、言葉を選ぶクレデルタから視線を外すと、ランフェスは小さく息をつく。

「お前はまだヒトだよ、クレデルタ」

 酷く優しい声に、クレデルタは食い入るようにランフェスを見つめた。

「ランフェス様…俺…」
「クレデルタ、分かっている。それでもお前は私についてくるのだという事を」

 クレデルタの言葉を皆まで聞かずに、ランフェスは優しく笑った。
 クレデルタはその後の言葉を言えるはずもなく、ゆっくりと口を閉じ、目を伏せると「はい」とだけ返事を返し、ランフェスへと敬礼をする。
 ランフェスはクレデルタを見なかった。あるはずもない心が軋み、悲鳴をあげたかった。
 必死に抑えたその悲鳴を飲み、素早く踵を返すと、来た道を戻った。

 この計画の成功を、祈りながら。



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