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「…とゆうことで、実際にノジェスティエの各地では、その触媒である神殿が発見されています」
爽やかな風と、微睡みを届ける日射しが射し込む教室。
その教壇にある机に寄り掛かりながら、銀の髪の青年は目の前に居る生徒たちに、よく通る声で分厚い書物の内容を読み上げ「分かったかい?」と小首を傾げ伺う。
生徒たちは楽しそうに声を揃え「はい!」と笑顔で返すと、青年も笑顔になった。
ここはシャルト軍士官学校・ルミノワ棟第一教室。
彼の瞳は穏やかなカーブを描き、爽やかを感じさせるレモンイエロー。柔らかな笑顔と言葉使いから、彼の物腰の柔らかさが伺える。
白を基調とし、一見白衣の様にも見えるが、これはシャルト軍・情報部の制服である。
青年は書物を閉じて机に置くと、生徒たちに目を向ける。
「では、そう言ったところを何て呼ぶのかな?」
その声に、生徒たちは待ってましたと言わんばかりに、いち早くにと手を上げた。
青年はそんな生徒達が可愛いらしいと思い、思わず微笑んだ。
「一番早かったね。よし、じゃあリオン」
青年が差したのは、おずおずとだが手を上げた少年だった。
リオンは当てられると思っていなかったのか、自身を指指す。
青年はそれに優しく笑うと、「いってごらん」と促す。
青年はリオンが、授業のこういった場面で恥ずかしそうに手を挙げているのを知っていたのだ。
リオンは顔を赤らめ席を立ち、深呼吸すると大きく口を開け、答える。
「せ、石室です」
「よし! 大正解だ! 今日は特に難しい問題だったんだがなあ…。そんなリオンには、シャルトで大人気のミリオンクッキーです」
可愛く包装されたそれを手渡してやると、
リオンの顔は輝き、周りの生徒達は皆羨まし気な声をあげた。
青年はそんな生徒達を宥めると、二度手を叩く。
「じゃ、皆も次頑張ろうね? 次はその石室がどこにあるか、光の従者達についてなので、次ページを予習してくること。とりあえず、今日の講義はここまでで、また来週…と、言いたい所だったんだが、これからこの講義は、俺じゃないんだったな…」
その一言に、生徒達は不満の声を上げる。
「やだ! クワースリがいい!」
「クワースリじゃないと、世界史なんてやりたくなーい!」
あちこちから上がる不満な声に、少なからず嬉しさを感じたが、ここは心を鬼にしなくてはならないと、青年、クワースリは自分に言い聞かせる。
「こらこら、これでも大人は忙しいんだぞ」
「いっつも軍師隊長に怒られてるから?」
一人の生徒が、面白そうにそう尋ねると、周りの生徒達は、クワースリを見て笑う。
「…あれは俺が有能すぎるからなの」
クワースリはその一言にぐうの音もでずに、苦し紛れにそう答えると、また声があがる。
「クワースリが仕事さサボるから仕事が多くなるってあの女男が言ってた」
「な、あいつそんな事まで…?」
「それに軍師隊長ってきれいだしぃ」
次々に生徒達はから上がるのは、シャルト軍・軍師隊長についてで、クワースリは気付かれぬ様に小さく拳を握った。
すると授業の終わりの鐘がなり、クワースリは我に帰り、固く握っていた手を開いた。
「おっと、時間だ。君たちも次の講義の準備をしなさい、遅れるよ」
何事もないようにそう言って教材を手にし、教室を出ようとすると、生徒達はクワースリの名を呼んで呼び止めた。
「また講義してね! 約束だよ!」
笑顔を輝かせ、愛らしい生徒達は口を揃えてそう言い、大きく手を振って見送ってくれた。
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