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「…エリス? 本当に大丈夫です?」
「ん? ああ、いや、イリスだけには逆らいたくねーなって思って」
思いの外、一人耽っていた時間が長かったようで、心配するイリスに、エリスは肩を竦めて冗談混じりにそう言うと、「僕もそんなんで斬りかかられたら嫌です」と木刀を見ながら返してきた。
「殴るの間違えじゃないか? でもイリスも使えるだろ」
「いえ、エリス程では」
そう言うイリスだが、実のところ、剣技はエリスと並ぶ程に腕が立つのだ。
エリスは「そうゆう事にしとく」とだけ呟くと、未だ硬直が取れていないシャーリーを見据えた。
「シャーリー、もう大丈夫だぞ」
「…あ、うん!」
駆け足にエリス達の元に来ると、シャーリーはエリスの手を掴み今にも泣きそうな顔で尋ねる。
「怪我はない? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だって!」
「でも…ごめんね、あたし…なんにも出来なくて…」
今にも大粒の涙が零れそうになっているシャーリーを見たエリスは、どうしたものかとイリスに目線を送るが、イリスはただ面白そうに笑っているだけであった。
「こ、こんなんで怪我してたら村の外なんて出歩けねーから! そうだ、シャーリーこそなんもないか?」
「…え? ええ、私は大丈夫よ」
俯いていたシャーリーは漸く顔をあげ、頷くと瞳に浮かんだ涙を拭った。
エリスはそんなシャーリーに「なら良かったんだ」とはにかみ、言葉を続ける。
「広場の騒ぎも収まったみたいだし、アーガテイがどうにかしてくれたかな」
「でしょうね。流石です」
イリスはにっこりと笑いながら二人に並ぶと、エリスの肩を二度叩く。
これはよく頑張りました。の合図だ。イリスの言葉がなくとも、イリスが言わんとしている事が分かるのだからなんとも複雑だ。
「でも心配…。早く行きましょ」
会場に続く道に目を向けると、アーガテイが出現させたあの鋭利な岩は跡形もなく消えていた。
シャーリーは心配のあまり先に行ってしまい、二人はシャーリーの後を追った。
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