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「これを!」

 受け渡されたものは、この場には似つかわしくないが、手作りの為か少し不格好な、だがよく見慣れた木刀だ。

「なんでこんなとこに」

 エリスはそれを何度か握り直し、手に馴染ませる様に振った。

「子供たちの遊び道具でしょう。術の発動までの時間稼ぎならこれで十分です。お願いいたしますね」

 イリスの言葉に、 エリスは頷くと魔物達に目を向ける。

「…ぜってー負けね!」

 エリスはそのまま走り出していた。

 直様イリスは口をつぐみ、目を瞑る。
 術の発動時には、術者の集中力をあげ、大気に感じる妖精達の声に、耳を貸さなければならないからだ。

 残った魔物は、狼の魔物・ウルフ二体、鳥の魔物ウィーバは三羽。

  今ここで危険があるのは鋭い牙を持つウルフである。
 ウルフはこの森に棲む魔物の中でも凶暴であり、人の肉を好む。
  かなり交戦的な性格もあり、何より群れでの狩りを得意とするからだ。
 ウィーバ自身、人に自ら攻撃を仕掛ける事は少なく、戦闘能力も低い。
 だが今は、闇の加護が高まっているために、あの嘴での攻撃は非常に危険だ。

 ーならばどうする?

 魔物達は、エリスに牙を向け突進するかの様に飛び込んできた。
 エリスはそれを軽々しく交わし、薙ぎ倒すように剣を振り、一匹のウルフを跳ね飛ばす。だが集団できているのだから、事はそう簡単にはいかない。

 直ぐに、他のウルフが食らいつくようにエリスに飛びかかってくるが、そのまま受け流し、先ほどと同じ様に攻撃を交わす。
 端から、このウルフ達を倒すことは考えてはいない。いかに時間を稼ぐかが大事なのだ。

 体制を大きく崩されたウルフは、よろめき、標準であったエリスを探している隙に、すかさずそこに一撃を入れると、ウルフは痛みに声をあげ、更に怒りが増したウルフ達の総攻撃が始まる。
 鋭い牙と爪を振り回し、三体で一気に間合を詰めてくる。
 それを見ていたウィーバも、ここぞとばかりに上空から攻撃を仕掛けてくる始末で、エリスは思わず舌打ちをする。
 さすがにこれ以上は持たない。


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