13

「シャーリー、僕から絶対に離れないで下さいね」

 未だ固まったままイリスに掴まっているシャーリーに、微笑みながら言うと、彼女は目を大きく開き何度も頷く。

 魔物達はというと、残されたエリス達に漸く気付いたのか、体をこちらに向けて怒りを露にしていて、エリスは二人を背に、魔物達を見つめ腰に手をやると、そこで重大なことに気付いた。

「俺武器持ってねーし!」

 いつも魔物と対峙するときは、左腰にある剣。
 離村式に出席するまでは、通常持つことは許されないが、扱いは既に慣れたものである。
 と言うのも、魔物達が狂暴になる季節、基闇の加護が高まった季節には北の森に住む魔物達の討伐に、行くこともあったからだ。
 その時には軍に申請をして真剣を使うこともある。

 この日の為に、村を守る為にと、小さい頃からエリス達はクワースリから遊びと称して、剣術を学んでいた。
 そんなこともあり、何時もの調子で魔物達の前に立ちはだかったみたものの、武器になるものなど持ってはいない。

「あ、そうでしたね」
「…くっそう。イリスはいいよな、妖精の力使えて」

 これでもかと言うほどに、目を細めてイリスを見遣ると、彼は苦笑する。

 エリスの言う『妖精の力』。
 それは古くからノジェスティエに伝わる不思議な力だ。
 ノジェスティエを代表する四大妖精、風・地・水・火、そして光と闇の妖精の力を借りることにより、弱き人でも莫大な力を得ることができる。
 先ほどアーガテイが軽々しくやってみせたものもそれに当たり、妖精の力を駆使し戦うものを妖精の使い魔〈メサージュドゥラフェ〉と言うのだ。

 ただ妖精の使い魔に誰でもなれるわけではない。
 なるのにはそれなりの素養が必要で、大気に漂う妖精の力を感じられることができる者、そしてそれを体内で変換し力に呑み込まれずにコントロールできる者しか使うことはできない。
 イリスはその妖精の力を使うことが出来るが、エリスにはそれを使う素養がまずない。


 そんな莫大な力を得ることの出来る妖精の使い魔にも、いくつか弱点がある。
 一番に上げられる理由は、その力を用いて発動する術には、少々時間がかかる事。
 
 時間を稼ぐ事が出来ればいいのだが、いくらエリスだとしても、魔物達に丸腰で立ち向かうことはあまりにも危険すぎる。
 一か八かと思考を巡らされていると、後方からイリスがエリスの名を呼んだ。


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