12

「じゃあどうしてこんな忙しい時に?」

 エリスが戯けながらイリスに尋ねると、彼は笑って返す。

「それは確かに同感ですね、でも見逃すわけにはいきませんよ。会場には村の人達がいますからね」


 エリスは「そうだな」と頷き、目の前の魔物達に目を向けると、会場の方から多数の悲鳴が響いた。

「嘘でしょ、会場にもいるって言うの?」
「でしょうね」
「アーガテイ! ここは手分けして倒そう! イリス、やるぞ!」

 エリスの声かけに、イリスは頷くがアーガテイは首を横に振った。

「駄目! 二人はまだ離村式を正式に受けてないから、あっちで戦えば問題になるよ!」
「んなこと言ってる場合かよ!」

 エリスは怒鳴りつけるようにアーガテイに言うが、彼女は顔をしかめながら、頑なに首を横に振る。
 しかしそうしている間にも、被害は拡大する。ここにいる魔物を倒し、会場に行くのでは遅すぎるのだ。

「アーガテイ、今俺たちが守らなきゃいけないのは何なんだよ!」

 エリスはアーガテイの小さな肩を強く持ち、揺さぶり問いかけるが、彼女はその手を強く振り払い魔物達へと向かっていく。

「アーガテイ!」

 エリスの声に、アーガテイは一瞥を投げると、魔物達の群れを軽やかに飛び越えた。
 そして片手を魔物達に向けると呪〈まじな〉いを素早く唱える。

 一瞬にして平らな地面が盛り上がり、鋭利な岩が出現し、魔物達を次々と容赦なく突き刺していき、数匹はそのまま絶命し空に還って逝く。

 それに危険を感じ、足を止めた残りの魔物達は、憤怒の声を上げながら地をならし、盛り上がった高い岩に着地したアーガテイに攻撃を仕掛けるも、彼女までそれは届かない。
 アーガテイは気にも留めずにエリス達に手を振った。

「ようし、分かった。じゃぁそっちは任せたからね!」
「ああ! まかせろよ、アーガテイ」
「期待してる。あ、シャーリーは守ってよ、イリス!」
「分かりました!」

 イリスは笑みを浮かべながら返すと、アーガテイも満面の笑みで頷く。

「じゃあちょっくら行ってくるね!」

 そう言葉を残し、アーガテイは軽々しく高い岩から会場側へと飛び降りると、足早に去って行った。



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