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 エリスは肩で息をするシャーリーに駆け寄ろうとするが、彼女を引き連れてきたアーガテイが抱き着いてきた為、それは阻まれてしまった。
 とは言ってもアーガテイも可愛い妹だ、エリスは腰に抱きついたままのアーガテイを撫でる。

「エリスおっひさー!」
「アーガテイ? おかえり、どうしたんだよ」
「素直におかえりでいーじゃん! ま、ただいま! イリスにもー!」

 満面の笑みを浮かべ、そのまま隣のイリスに抱きつく。端から見ると、腰に巻き付くといった表現の方が、近いかもしれないとエリスは思った。

 エリスはまたシャーリーに目を向けた。
 アーガテイに手を引かれて走ってきたのだろうが、十六の少女には、まだ幼いと言えども軍人の足取りは早かったのだろう。
 エリスは心配そうな表情を浮かべながら、シャーリーに手を伸ばした。

「シャーリー、お前大丈…」
「…んもう! 二人とも遅いんだから! 離村式に遅れるなんて馬鹿にも程があるわ! すっごいすっごい心配しちゃったじゃないの!」

 いつものような、柔和な笑顔になると思っていたエリスは、驚きのあまりその場で凍り付く。
 体を震わせながら怒声を飛ばすシャーリーに、二人よりも明らかに小柄なシャーリーなのだが、そんなシャーリーの気迫に、思わず二人は後退りする。

 温厚なシャーリーがここまで怒るとは、二人とも予想していなかったのだ。
 エリスは漸く状況を理解できたのか、本来シャーリーにかけてやる筈だった手、もはや行き場のなくなった手を、腰にあてると背筋を伸ばしシャーリを見下ろすと、口を尖らせて反論する。

「しょ、しょーがねーだろ! 寝坊したんだからよ。そんな怒る…」
「嘘信じられない、寝坊したの? そんな事威張らないでよ! これじゃぁ間に合わないんだよ? どうするのよ!」

 シャーリーはエリスの言葉をまくし立て一掃すると、次はイリスへと目を向けた。

 大きな瞳にはうっすらと涙が浮かんでおり、イリスは思わず苦笑する。

「シャーリー、落ち着いて下さい。はい、エリスも」

 そう言ったイリスは、エリスとシャーリーの背中をあやすように優しく叩いてやった。
 それは喧嘩をする二人の仲裁に、昔からイリスがすることである。


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