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「あれ? イリスとエリス、まだ来てないの?」

 アーガテイは大袈裟に辺りを見渡し、シャーリーに向き直り小首を傾げる。

「うん、そうなの。どうしちゃったんだろ? あのイリスが忘れるわけないと思うんだよね」
「ふーん…、確かにね」

 納得する様に何度も頷いていたアーガテイだったが、大きな声を上げて、勢いよくシャーリーを見上げた。

「イリスとエリスの事で思いだした!」

 目を見開き、そしてアクセントに人指し指を立たせながら、アーガテイはシャーリーに伝える。

「クワースリにね、その二人を今すぐ呼んでこいっていわれたの。大事な御話しがあるっていってたよ」
「…お兄ちゃんが? なんだろ…今呼んじゃったら、二人共離村式に出れないんじゃないの?」

 不安気な声をあげて尋ねると、アーガテイは「大丈夫だよ」と言葉を続ける。

「はっきり言って、離村式なんて形だけだし」
「…まあそうだけど、でもあれに出ないと王都に認められないし、法律に違反するんじゃなかったっけ?」
「だってあんなの出なくったって本当は…」

 するとアーガテイは失敗したと言わんばかりに、自身の口を塞ぐ。
 その行動に、シャーリーは少なからず驚いた。

「どうしたの?」
「…なんでもない。やっぱりシャーリーが言う通りそうだよね! あたしってば、かなり適当だから、軍でも怒られっぱなしなんだよ」

 恥ずかしそうに笑いながら、何事もないようにアーガテイは話をすり替え、言葉を紡ぐ。不自然なのは明瞭だったが、シャーリーはそれに触れることはせず、「そんなことないよ」と微笑む。
 アーガテイもそれに笑みを返してくれるが、その笑みに緊張の色が伺えた。

 話をすり替えたのは、ただ単に、軍人の立場としての立場があるからだろうと思っていたが、どこか腑に落ちず、シャーリーは眉根を潜める。

「ね、シャーリー。遅いから二人を探しに行こうよ! どうせあたしたちの家もそっち方面なんだからさ!」

 そんな事を一人思い悩んでいることなど知ってはいないのか、何時もの様にはしゃぎながら「いいでしょ?」と同意を求めるアーガテイに、シャーリーは兄であるクワースリの事もあり、「そうだね」と頷いた。

 するとアーガテイは嬉しさのあまりか声をあげて、その場で小さな子供の様に跳ねる。
 軍人と言えど、やはりまだ幼さは消え去ってはおらず、思わず笑みが溢れた。


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