その後、正式に一人一曲ずつ詞を書くことが決まり、その提出期限は1週間後という厳しい条件が出され、解散となった。
(……作詞……かあ……)
自動販売機で飲み物を買い、そばの椅子に腰かけてぼんやりと考えていると……
いつの間にかやって来ていた一磨さんがスッと隣に腰を下ろした。
「作詞のこと、考えてる?」
「あ、はい……」
「……いいよ、もう終わったんだから。いつも通りで」
「ふふ。じゃあ……うん」
フワッと優しい微笑みを浮かべる一磨さんに、自然とわたしも笑顔を返す。
けれど、何かに気づいたように、ふいに一磨さんの表情が曇った。
スッと手が伸ばされると、大きな温かい手のひらがわたしの頬を包む。
「……顔色が悪いね」
「え……?」
「眠れてる?」
心配そうにわたしを覗き込む瞳に、胸がドクンと鳴る。
「あ……」
頬を包んでいた手がゆっくりと背中に下りていき、ふわり、一磨さんの腕の中に包まれた。
「……無理、しないで」
そう言う一磨さんの声が少し震えている気がする。
「……うん……ありがとう……」
(一磨さんの胸……あったかい)
大好きな温もりに、無意識のうちに張りつめていた緊張が解けていく。
そして一磨さんの胸に顔を埋めたまま、意識が遠のいていくのだった……
腕の中でかすかな寝息を立てる、その顔にかかる髪をそっと払いながら、小さくつぶやく。
「……痩せたな」
互いに忙しい日々を送り、こうしてコラボの話がなければ、会うこともままならなくなっていた。
彼女はあまり自覚していないようだが、今や彼女もトップアイドルとして名を連ねている。
アイドルとしてだけではない、女優としても。
しかし、自分の腕の中にある少しやつれたようにも見えるその顔は、あどけなさを残していた。
「……詩季……」
一磨はそっと起こさないように、自分の背中に回された細い腕を外すと、膝の上に横たえた。
「……あれ?一磨?」
遠慮がちに呼びかけられ、振り向くと京介が立っていた。
「ああ。京介」
京介はチラリと一磨の膝元に視線を送ると、ニヤリと笑う。
「……詩季ちゃん、寝ちゃったんだ」
意味深なその視線から逃れるように顔を背けた一磨は、そっとため息をつく。
「お前な……。ドラマの撮影と並行してこっちに顔出してくれているから、疲れてるんだよ」
「……ああ。顔色悪かったからね」
京介のその言葉に、複雑な表情を浮かべる一磨。
「まあ、少し寝かせてあげたらいいんじゃない。それに……最近会えてなかったんだろ?」
「……まあな」
「じゃ。先行くよ」
「お邪魔さま」と言い残し、背中を向けた京介を見送り、フッと息を吐く。
「……詩季……」
「………詩季……」
遠くで穏やかな声がわたしの名前を呼んでいる。
やわらかく髪をなでる手の感触。
次第に意識が浮上してきて、フワリと目を開けると、大好きな人の顔が間近に覗いていた。
「……あ……れ……?わたし……」
「おはよう」
(あ……そっか、あのまま眠っちゃったんだ……)
膝枕をしてもらっていたことも、眠ってしまったことも、少し恥ずかしくなり目を伏せる。
すると、一磨さんの手が頬に触れる。
「少し顔色……良くなったね」
見上げると、穏やかな微笑みを浮かべ、わたしを見つめる一磨さんと視線が重なった。
「……」
言葉もなく見つめあうわたしたちの間に、ゆっくりと優しい時間が流れていく。
わたしは微笑みを返すと、頬に当てられた手に自分の手を重ね、ゆっくりと目を閉じた。
(一磨……)
「詩季……」
わたしたちはそのまましばらく、久しぶりのふたりだけの空間に身を委ねるのだった。