激しく混乱する頭で、わたしはテレビ局の廊下を歩いていた。
どこをどうして屋上から戻って来たのか、全く覚えていない。
(頭が……痛い……)
収録が終わったら、楽屋で待っていてと言った一磨さんの言葉を思い出したわたしは、自分の楽屋へと向かっていた。
その途中、わたしはひどい頭痛と目眩に襲われうずくまった。
動悸が激しく、呼吸がうまくできない。
「……詩季ちゃん!」
背後から駆け寄ってくる足音もわたしを呼ぶ声も、どこか遠くに聞こえるだけで、何も考えられない。
「詩季ちゃんっ……大丈夫?」
「…………」
一磨さんは返事を返すことができないわたしの身体を抱きしめ、背中をさすってくれる。
温かい手のリズムに合わせて少しずつ呼吸が楽になり、ようやく視界に色が戻ってきた。
「……落ち着いてきた?」
「……う……ん……」
ホッとした瞬間、目から熱いものがこぼれ落ちた。
涙を見られないように、立ち上がろうとしたわたしを、一磨さんの腕がさえぎる。
「……大丈夫。俺につかまって。とりあえず楽屋に行こう」
そう言って、一磨さんはわたしを軽々と抱き上げた。
「……気分はどう?」
「ありがとう。もう、大丈夫」
少し休んでから私服に着替えたわたしは、一磨さんが淹れてくれたミルクティーに口をつける。
ホッとする温かさと甘さは、彼の腕の温もりと同じように、わたしの心も包み込んでくれるようだ。
(でも……一磨さんには絶対に知られたくない……)
どこに行っていたのかも、何があったのかも、誰と会っていたのかも。
(一磨さんは優しいから、何も聞いて来ない。例え不安に感じていたとしても……)
考え込んで俯くと、大きな手がわたしの頭をなでた。
「そんな風に思い詰めないで。無理に話さなくてもいいから」
「うん……ありがとう。ごめんね、心配かけちゃって……でも、もう大丈夫だから」
わたしは無理矢理笑顔を作った。
一磨さんに心配をかけたくないという一心で。
それはわたしの僅かながらも芽生え始めていた、女優としての誇りと、意地のようなものだった。
「……そっか。じゃあ、良かった……」
一磨さんは少し首を傾げた後、わたしに笑顔を返してくれる。
わたしは笑顔の裏で、翔くんのことを思い出した。
(翔くん……どうして……)