13

「じゃあ、詩季ちゃんは窓辺に立って、空を見上げる感じで口ずさんで」

「はい」

「一磨くん、京介くん、亮太くん、義人くんはさっき伝えた通りに……」

「はい」

監督からの指示を受けてそれぞれがセットへと向かう。

「詩季ちゃん、そこ段差があるから気をつけて」

「あ、はい」

セットへ向かうわたしに、一磨さんが声をかけてくれる。

わたしはドレスの裾を持ち上げて、セットに上がろうとした。

「キャッ!」

けれど、ふわりと広がったスカートで足元が見えずに、足を踏み外してしまう。

(こ、転ぶ……!)

ギュッと目を閉じた瞬間。

「詩季ちゃん!」

グイッと腕を引かれ、そのままわたしは力強い腕に抱き止められた。

目を開けると、すぐ近くに一磨さんの顔。

彼は床に方膝を立て、わたしはそこにもたれかかるように倒れていた。

「あ……ご、ごめんなさい……」

あまりの恥ずかしさに顔を上げられず、目を伏せたまま謝る。

そして今の状況に気づいたわたしは、咄嗟に彼の膝から立ち上がろうとする。

すると、それをやわらかく一磨さんの片手が阻止した。

「え……?」

次の瞬間、フワッと身体が宙に浮き、わたしを横抱きにした一磨さんは、セットへ上ったところでゆっくりと降ろす。

「気をつけてって、言っただろう?」

わたしを諌めるその声もまなざしも、とても温かい。

「ごめんなさい。それから……ありがとう」

彼に頭を下げるわたしに、ヒュウッと側で小さな口笛が鳴らされた。

「一磨、やるね」

そこにいたわたしたちにしか聞こえないくらいの、ささやきを落として通り過ぎて行ったのは、京介くん。

「……まったく」

素知らぬ様子でスタンバイを始める京介くんにチラリと視線を送ってから、一磨さんはわたしに向き直る。

「詩季ちゃん」

「はい?」

「収録が終わったら……楽屋で待っててくれる?」

「あ……はい」

「じゃあ、また後で」


その後順調に撮影は進み、最後に翔くん、そしてわたしが、それぞれ順番に扉を開けるシーンを撮影して終わった。

「それにしても詩季ちゃんのドレス姿、キレイだなぁ」

「あ、ありがとうございます」

「まるで本当にこれから翔くんと結婚式を挙げるみたいだよ」

(本当にって……も、もう……)

満足そうに笑って茶化す監督に、頬が少し熱くなるのを感じながら、わたしは俯いた。

「じゃあ、今日のところはお疲れさま」

「はい。お疲れさまでした」

一通り挨拶を終えて廊下に出たところで、わたしはこっそり息を吐き出す。

(これが本物の結婚式だったら……かぁ)

その時は、一磨さんがタキシードを着て、わたしの隣に立っていてくれるのかな。

そんなことを考えながら、わたしは着替えのために控え室に向かった。



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