「う……ん……」
カーテンのすき間から差し込む光に、うっすらと目を開ける。
(あ……)
「おはよう」
目の前に現れたのは、穏やかに微笑む一磨さんの顔。
「……おはよう」
少しかすれた声がわたしの喉から押し出される。
「熱、下がったね」
横になったまま、コツンとぶつかるふたりのおでこ。
睫毛がくっつくくらいの距離に、大好きな笑顔がある。
「うん……ありがとう」
そのまま流れるように自然と唇が重なる。
朝、起きて一番に彼の顔が見られる。
声が聞ける、幸せ。
わたしは目を伏せたまま、一磨さんの胸に頬をすり寄せた。
「……あったかい」
穏やかに打ち付ける一磨さんの鼓動にわたしの鼓動が重なる。
「ごめんね」
規則正しい優しい心音を聞きながら、わたしはポツリと口を開いた。
「……え?」
「久しぶりのお休みだったのに……」
「謝ることないよ。おかげで……こうして朝まで一緒に居られただろう?」
クスッと笑った一磨さんの言葉が胸を通して伝わってくる。
「ふふ。そうだね……良かった」
「ああ……」
ポンとわたしの頭を軽く叩く大きな手。
スッとわたしの髪に通された指が、優しく髪をすくった。
「詩季」
「なあに?」
「手を出して」
「手……?」
首を傾げながら手を差し出すと、ひんやりと冷たいものが乗せられる。
一磨さんの手が離れると、そこには、1本の鍵。
「これ……」
驚いて見上げると、穏やかに優しく細められた目がわたしを見つめていた。
「ずっと考えてたんだ。この部屋の鍵……詩季に持っていてほしい」
「わたしが……もらって、いいの?」
「普段は忙しくてすれ違うことも多いから……いつでも会いに来て、っていう俺の気持ちみたいなものだよ」
じんわりと頬を赤く染めながら、鍵を握りしめるわたしの手を、一磨さんの手が包む。
「……今度来る時は、着替え、持っておいで」
(一磨さん……)
わたしは思わずギュッと彼の胸に抱きついた。
「詩季?」
うれしくて、幸せで、愛しくて。
それだけの言葉ではこの気持ちを表現することなんてできない。
(切なくなるくらいに、あなたのことが大好きなのに……)
「……愛してる」
いつも恥ずかしくてわたしからは言えない言葉。
胸にあふれる気持ちを抑えられず、彼の頭を抱き寄せる。
「詩季……」
わたしの名前を呼ぼうとした彼の唇に自分の唇をそっと重ねた。
唇から伝わるお互いの温もりが、心地よく混ざり合って溶けていく。
それは、ふたりが紡いでいく、穏やかな優しい時間。